【精神科専門医解説】リーマス(炭酸リチウム)の効果・血中濃度・副作用|TDMとリチウム中毒まで

目次
- はじめに
- リーマス(炭酸リチウム)とは?
- 作用機序|単一の受容体では説明できない気分安定薬
- リーマスはどのようなときに使う?
- 自殺予防効果は本当にある?
- 精神科医から見たリチウムの使いどころ
- 他の気分安定薬との臨床的な違い
- 用法・用量
- 1日1回投与はどう使う?
- TDM|血中リチウム濃度をどう読むか
- 採血はいつ行う?
- どのくらいの頻度で採血する?
- 高齢者では血中濃度を低めに考える
- 血中濃度以外に確認する検査
- 腎機能への影響
- リチウム中毒|最も注意すべき副作用
- なぜ同じ量を飲んでいても中毒になる?
- ロキソニンなどのNSAIDsに注意
- 特に注意する飲み合わせ
- よくみられる副作用
- 躁状態が治った後こそ中毒に注意
- 妊娠中のリチウム|2026年に禁忌が解除
- 自己判断で急にやめてもよい?
- 患者さん・ご家族に覚えてほしいこと
- よくある質問
- 精神科医から見たリチウムの本質
- まとめ
- 引用・参考文献
はじめに
リーマス(一般名:炭酸リチウム)は、
双極症(双極性障害)の治療で長い歴史を持つ、
代表的な気分安定薬です。
躁状態の治療だけでなく、
長期的には躁病・抑うつ双方の気分エピソードを予防する薬として、
現在でも双極症治療の重要な選択肢です。
一方、リチウムは
「効果が期待できる濃度」と「中毒を起こし得る濃度」の幅が比較的狭い薬
です。そのため処方量だけではなく、
血清リチウム濃度、腎機能、甲状腺機能、脱水、併用薬などを確認しながら治療します。
リチウム治療では「何mg飲んでいるか」以上に、
「その患者さんでどの血中濃度になっているか」が重要です。
同じ600mg/日でも、年齢、腎機能、脱水、発熱、下痢、
塩分摂取、併用薬などによって血中濃度は変化します。
リーマス(炭酸リチウム)とは?
(健康成人に炭酸リチウム200mgを単回投与したデータ)
国内承認適応と、現在の双極症診療での使用範囲は同一ではありません。
日本の添付文書上の効能・効果は
「躁病および躁うつ病の躁状態」です。
一方、日本うつ病学会の診療ガイドラインでは、
リチウムは躁病・抑うつ双方のエピソードを予防する
維持療法の主要な選択肢として位置づけられています。
維持療法などは国内では適応外使用となります。
作用機序|単一の受容体では説明できない気分安定薬
リチウムは、抗精神病薬のドパミンD2受容体遮断や、
SSRIのセロトニントランスポーター阻害のように、
一つの標的だけに作用する薬ではありません。
現在は、
イノシトールリン脂質系、GSK-3、モノアミン神経伝達、
神経可塑性・神経栄養系
など、複数の細胞内シグナルを調節することで
気分安定作用を発揮すると考えられています。

神経可塑性など複数の細胞内経路を調節すると考えられています。
① イノシトールリン脂質系の調節
リチウムはイノシトールモノホスファターゼ(IMPase)などを阻害し、
イノシトールリン脂質を介する細胞内情報伝達を変化させます。
いわゆる「イノシトール枯渇仮説」は、
リチウムの作用機序を説明する代表的な仮説の一つです。
ただし、これだけで臨床効果のすべてを説明できるわけではありません。
② GSK-3の調節
現代のリチウム薬理で特に注目されているのが、
GSK-3(glycogen synthase kinase-3)です。
GSK-3は遺伝子発現、細胞生存、神経可塑性、
ドパミン・グルタミン酸神経伝達など多数の生物学的機能に関与し、
概日リズムとの関連も研究されています。
ただし、
「GSK-3を阻害するから躁状態が改善する」と
一対一で説明できるほどリチウムの薬理は単純ではありません。
複数の細胞内経路の総合作用として理解するのが妥当です。
③ 神経可塑性・神経栄養系
BDNF、CREB、GSK-3などを介した
神経可塑性や神経保護に関連する作用も研究されています。
基礎研究・画像研究では興味深い知見がありますが、
「リチウムが傷んだ脳を修復する」
と患者さんへ断定するのは行き過ぎです。
リーマスはどのようなときに使う?
躁病・躁状態
炭酸リチウムの国内承認適応は
躁病および躁うつ病の躁状態です。
多幸感、易怒性、活動性亢進、睡眠欲求の減少などを伴う
典型的な躁病エピソードでは、現在でも重要な治療選択肢です。
一方、強い興奮、攻撃性、精神病症状を伴う急性躁状態では、
リチウム単剤だけでは作用発現が十分に速くないことがあります。
そのため第二世代抗精神病薬などを併用することもあります。
維持療法・再発予防
リチウムの大きな臨床的価値は
長期的な再発予防にあります。
躁病エピソードだけでなく、
抑うつエピソードの再発予防にも効果が期待できるため、
長期的に気分の波を小さくする薬として使用されます。
双極症そのものについては
双極症(双極性障害)の解説ページ
もご参照ください。
双極性うつ病ではどう考える?
「躁にも抑うつにも効く」と説明されることがありますが、
リチウムは
急性の双極性うつ病を短期間で強く改善させることを主目的とした薬
ではありません。
双極性うつ病の急性期では、
病歴や症状に応じてクエチアピン、ルラシドン、
ラモトリギンなど他の治療選択肢も検討します。
リチウムの強みは、
長い時間軸で気分エピソードを減らすこと
にあります。
治療抵抗性うつ病の増強療法
海外では、抗うつ薬だけで十分な改善が得られない
治療抵抗性うつ病にリチウムを追加する
リチウム増強療法も用いられます。
ただし、日本では通常の単極性うつ病に対するリチウム使用は
承認適応外です。
自殺予防効果は本当にある?
リチウムについて長年注目されている特徴の一つが、
自殺・自殺行動の減少との関連です。
日本うつ病学会の双極症診療ガイドラインでも、
リチウムは自殺リスク低下との関連を持つ薬剤として位置づけられています。
一方、近年のランダム化比較試験のみを統合したメタ解析では、
リチウム群で自殺関連アウトカムが少ない方向は示したものの、
統計学的有意差には至らない解析もあります。
自殺予防については、過大評価も過小評価もしないことが重要です。
長期研究や観察研究を含めれば、
リチウムと自殺リスク低下との関連を支持する知見は豊富です。
ただし、
「気分安定作用とは独立した特殊な抗自殺作用が完全に証明されている」
と断定するのは、現時点では強すぎる表現です。
精神科医から見たリチウムの使いどころ
執筆者の臨床的見解
リチウムは、採血が必要で、
腎機能、甲状腺、脱水、相互作用まで考慮する必要があります。
そのため「簡単に出せる薬」ではありません。
一方で、
典型的な躁うつの病相を繰り返す患者、
過去にリチウムへ明確に反応した患者、
長期的な再発予防を重視する患者
では、現在でも積極的に検討する価値の高い薬だと考えています。
新しい気分安定薬や抗精神病薬が増えた現在でも、
リチウムを単に「昔の躁病薬」と考えるのは適切ではありません。
リチウムが効きやすい患者に特徴はある?
長期リチウム反応性を検討した研究では、
病相間に比較的明瞭な寛解期があること、
典型的な躁病・抑うつの周期性、
双極症の家族歴などが良好な反応と関連する可能性があります。
一方、
急速交代型(rapid cycling)では反応性が低い傾向
が報告されています。
ただし、これらは「効く・効かない」を決定する診断基準ではありません。
急速交代型だからリチウムを使わない、
混合症状だから必ず別の薬にする、
という機械的な使い分けは適切ではありません。
他の気分安定薬との臨床的な違い
| 薬剤 | 臨床的な特徴 | 検討しやすい場面 |
|---|---|---|
| リチウム | 躁病治療+躁・抑うつ双方の再発予防。 長期エビデンスが豊富 |
典型的な周期性を示す双極症、 長期維持療法、自殺リスクも考慮する症例 |
| バルプロ酸 | 抗躁作用を持ち、 混合症状や急速交代型などでも使用される |
躁状態、混合症状を伴う場合など。 妊娠可能性のある女性では胎児リスクに特に注意 |
| ラモトリギン | 躁病急性期への効果は期待しにくく、 抑うつエピソード予防に特徴 |
抑うつ優位の維持療法など |
| 第二世代抗精神病薬 | 急性躁状態で作用を得やすく、 一部は維持療法や双極性うつ病にも有効 |
強い躁状態、精神病症状、不眠、興奮など |
| アリピプラゾールLAI | 双極Ⅰ型障害の再発・再燃抑制に国内承認あり | 毎日の服薬負担や服薬継続が課題になる場合など |
用法・用量
国内添付文書では、
成人には通常400〜600mg/日から開始し、
1日2〜3回に分けて服用します。
その後、3日〜1週間ごとに調整し、
通常は1日1200mgまでの治療量へ漸増します。
症状が改善した後は減量し、
通常200〜800mg/日を1日1〜3回で維持します。
維持療法では1日1回投与も、国内添付文書上認められている用法です。
「リチウムは必ず朝夕2回に分けなければならない」
という薬ではありません。
また、
「600mgだから少ない」「1000mgだから多い」
と用量だけで評価することもできません。
臨床効果、副作用、年齢、腎機能、
そして血清リチウム濃度を合わせて用量を決定します。
1日1回投与はどう使う?
長期維持期では、
1日の必要量を夜1回にまとめる方法もあります。
服薬回数を減らせるため、
長期治療では服薬継続をしやすくなることが期待できます。
一方、1回あたりの投与量が増えるため、
患者によっては悪心、胃部不快感、振戦などが目立つことがあります。
その場合は1日2回などの分割投与が適していることもあります。
Clinical Pearl:1日1回投与と腎臓
長期リチウム治療では、
1日1回投与の方が腎臓への影響を少なくできる可能性
が以前から指摘されています。
腎性尿崩症や慢性腎障害について検討した系統的レビューでも、
中毒を避けること、必要最小限の有効血中濃度を用いることと並んで、
1日1回投与が腎障害予防策として提案されています。
ただし、1日1回投与と分割投与を比較した研究は
小規模・古いものが多く、
尿量などについては結果が一致していません。
したがって、
「1日1回なら腎障害を防げる」と断定するのではなく、
有効性を維持しながら腎毒性を減らせる可能性のある投与法
と考えるのが妥当です。
執筆者の臨床的見解
維持期で状態が安定している患者では、
私自身も夜1回投与は十分検討に値する方法だと考えています。
服薬回数を減らせることに加え、
腎臓への長期的影響を考えても理論的・臨床的な合理性があります。
ただし、1日1回にすることそのものを目的にするのではなく、
消化器症状、振戦、血中濃度、腎機能、
服薬習慣を見ながら患者ごとに決めるべきです。
TDM|血中リチウム濃度をどう読むか
炭酸リチウムでは
TDM(Therapeutic Drug Monitoring:治療薬物モニタリング)
が治療の中核になります。
| 血清リチウム濃度 | 臨床的な考え方 |
|---|---|
| 0.4〜0.6 mEq/L | 維持療法で十分な効果があり、 忍容性を優先する場合などに用いられる低めの範囲 |
| 0.6〜0.8 mEq/L | 国際的には成人維持療法の標準的な目標域としてよく用いられる |
| 0.8〜1.0 mEq/L | 効果不十分で忍容性が良好な場合や、 急性躁状態などで高めの濃度を必要とする場合に検討 |
| 1.5 mEq/L超 | 添付文書上、臨床症状を十分観察し、 必要に応じて減量・休薬を検討 |
| 2.0 mEq/L超 | リチウム中毒を起こす可能性が高まり、 減量または休薬を含む対応が必要 |
「1.5mEq/L未満だから中毒ではない」とは言えません。
リチウムに対する感受性が高い患者では、
1.5mEq/L以下でも中毒症状が出現することがあります。
血中濃度だけでなく臨床症状を合わせて判断します。
急性躁病なら0.8〜1.2mEq/Lを目指す?
海外資料では、急性躁病で
0.8〜1.2mEq/L程度が提示されることがあります。
しかし、日本の臨床ですべての患者を
機械的に1.2mEq/Lまで上げる必要はありません。
効果、副作用、年齢、腎機能を見ながら、
必要な範囲で調整します。
執筆者の臨床的見解
長期維持療法では
「検査値を高くすること」そのものを目標にすべきではありません。
再発を十分に抑えながら、副作用を許容できる最も低い有効濃度
を探していくという考え方が実践的です。
採血はいつ行う?
血清リチウム濃度は採血時刻によって変化するため、
採血条件をそろえることが非常に重要です。
国内添付文書では
反復投与時の最低血中濃度(トラフ値)
を測定することが基本です。
一方、国際的なリチウム研究や診療では、
前回服用から約12時間後の血清濃度
が標準化された指標として広く用いられています。
1日1回投与では「12時間値」と「真のトラフ値」は同じではありません。
例えば夜21時に1日1回服用している場合、
翌朝9時の採血は「服薬12時間後」ですが、
次の服薬直前である24時間後の値ではありません。
したがって、
採血時刻と前回服用時刻を記録し、毎回できるだけ同じ条件で比較する
ことが重要です。
夜1回投与の場合には、
夜に服用 → 翌朝の決まった時間に採血
とすると、12時間値を比較しやすくなります。
分割投与の場合は、
朝の服薬前に採血する方法が実践的です。
どのくらいの頻度で採血する?
| 状況 | 血中濃度測定の考え方 |
|---|---|
| 開始時・増量時 | 維持量が決まるまで週1回程度 |
| 安定した維持療法 | 国内添付文書では2〜3か月に1回程度 |
| 脱水・発熱・下痢・食事低下 | 予定採血を待たず測定を検討 |
| NSAIDs・利尿薬・ACE阻害薬・ARB開始時 | 血中濃度上昇を考え追加測定 |
| 腎機能低下 | 通常より頻回に評価 |
| 中毒を疑う症状 | 速やかに血中濃度を確認 |
高齢者では血中濃度を低めに考える
高齢者では腎機能低下、体液量の変化、
多剤併用などによってリチウム中毒が起こりやすくなります。
ISBDの高齢者双極症に関する専門家コンセンサスでは、
維持療法の血清濃度として、
60〜79歳で0.4〜0.8mmol/L、
80歳以上で0.4〜0.7mmol/L
程度の低めの範囲が提案されています。
血中濃度以外に確認する検査
| 検査・評価 | 目的 |
|---|---|
| Cr・eGFR・BUN | 腎機能、リチウム蓄積リスクの確認 |
| Naなど電解質 | 脱水、体液・Naバランスの評価 |
| TSH・FT4 | 甲状腺機能低下症・甲状腺炎の評価 |
| Ca | 副甲状腺機能亢進症・高Ca血症の評価 |
| 体重・BMI | 体重増加を含む長期的な身体影響の評価 |
| 心電図 | 心疾患、心血管リスク、不整脈などがある場合に検討 |
腎機能への影響
リチウムは腎排泄型の薬剤であり、
腎機能が低下すると血中リチウム濃度が上昇しやすくなります。
また、長期使用では、
腎性尿崩症や慢性腎機能障害との関連も知られています。
そのため、
血中リチウム濃度だけでなく
CrやeGFRの推移を長期的に確認する
ことが重要です。
腎障害を減らすうえでは、
リチウム中毒を起こさないこと、
必要以上に高い血中濃度を維持しないこと
が特に重要です。
1日1回投与も腎保護に有利な可能性がありますが、
これだけで慢性腎障害を防げるわけではありません。
リチウム中毒|最も注意すべき副作用
リチウム治療で最も注意すべき有害事象が
リチウム中毒です。
| 程度 | 注意する症状 |
|---|---|
| 初期〜軽度 | 吐き気、嘔吐、下痢、食欲低下、 手の震えの増悪、眠気 |
| 中等度 | 粗大振戦、ふらつき、運動失調、 ろれつが回らない、錯乱 |
| 重度 | 意識障害、けいれん、ミオクローヌス、 急性腎障害など |
「いつもの細かな震え」が突然大きくなる、
歩き方がおかしい、
ろれつが回らない、
意識がぼんやりする
といった変化は特に重要です。
中毒が疑われる場合は、
次回予約まで待たず医療機関へ相談してください。
なぜ同じ量を飲んでいても中毒になる?
リチウムは主に腎臓から排泄され、
ナトリウムと水分の状態に強く影響されます。
したがって、処方量が同じでも
血中濃度が突然上昇することがあります。
発熱/大量発汗/脱水/嘔吐/下痢/食事摂取低下/
過度な減塩/腎機能低下/相互作用薬の追加
ロキソニンなどのNSAIDsに注意
リチウム治療中に特に重要なのが
NSAIDsとの相互作用です。
ロキソプロフェンなどのNSAIDsは
腎臓からのリチウム排泄を低下させ、
血清リチウム濃度を上昇させる可能性があります。
NSAIDsは
添付文書上「併用禁忌」ではなく「併用注意」
です。
必要な場合に一切使用できないという意味ではありませんが、
自己判断で連用せず、
リチウムを服用していることを医師・薬剤師へ伝えてください。
特に注意する飲み合わせ
| 薬剤・治療 | 主な注意点 |
|---|---|
| NSAIDs | 血中リチウム濃度上昇・中毒 |
| チアジド系・ループ利尿薬 | 血中濃度上昇・中毒 |
| ACE阻害薬 | 血中濃度上昇・中毒 |
| ARB | 血中濃度上昇・中毒 |
| メトロニダゾール | 血中濃度上昇の可能性 |
| SSRI・SNRI等 | セロトニン症候群に注意 |
| 抗精神病薬 | 神経毒性、錐体外路症状、悪性症候群などに注意 |
| 電気けいれん療法(ECT) | せん妄、けいれん遷延などに注意し、 周術期のリチウム管理を行う |
| SGLT2阻害薬 | リチウムの腎排泄を促進し血中濃度を低下させる可能性。 中止時には逆に濃度上昇にも注意 |
よくみられる副作用
比較的よく経験するのは、
細かな手指振戦、口渇、多尿、頻尿、
吐き気、下痢、眠気、倦怠感
などです。
長期使用では、
甲状腺機能低下症、
腎濃縮能低下・腎性尿崩症、
腎機能への影響、
副甲状腺機能亢進症・高カルシウム血症などにも注意します。
手の震え
細かな手指振戦は、
治療域でもみられる代表的な副作用です。
一方、
急に粗い震えになった場合や、
ふらつき、構音障害、下痢、強い眠気などを伴う場合には、
リチウム中毒を考えます。
多尿・口渇
リチウムは腎臓の尿濃縮機能を低下させ、
多尿・口渇を引き起こすことがあります。
強い多飲・多尿が続く場合には
腎性尿崩症の評価が必要です。
甲状腺機能低下症
リチウムは甲状腺機能低下症を起こすことがあります。
疲労感、眠気、体重増加、寒がり、抑うつなどは
双極症の抑うつ症状とも区別しにくいため、
TSH・FT4などを定期的に評価します。
甲状腺機能低下が生じても、
リチウムが非常によく効いている患者では、
甲状腺ホルモン補充を行いながら
リチウムを継続する選択肢があります。
体重増加
リチウムでは体重増加がみられることがあります。
また口渇が強くなり、
清涼飲料や糖分を含む飲料の摂取量が増えることで、
二次的に体重が増えるケースもあります。
体重が増加した場合は、
単に「食べないようにする」のではなく、
飲料、食事、活動量、睡眠、併用薬などを一緒に整理します。
躁状態が治った後こそ中毒に注意
添付文書には、
躁状態ではリチウムへの耐容性が比較的高く、
躁症状が治まると耐容性が低下する
ことが記載されています。
急性躁状態で比較的高用量を使用していた患者では、
病相改善後も同じ用量を漫然と続けるのではなく、
血中濃度と副作用を再評価することが重要です。
妊娠中のリチウム|2026年に禁忌が解除
2026年6月、国内添付文書から
「妊婦・妊娠している可能性のある女性」の絶対禁忌が削除されました。
現在は、
「治療上やむを得ないと判断される場合を除き、投与しない」
という位置づけです。
これは、
「妊娠中でも安全になった」
「妊婦へ積極的にリチウムを処方する」
という意味ではありません。
妊娠初期のリチウム曝露では
先天性心疾患などのリスク増加が報告されています。
一方、リチウムの中止によって双極症が再発するリスクもあります。
妊娠中に使用する場合には、
周産期メンタルヘルスに習熟した精神科医と
産科医療機関との連携が重要です。
妊娠に伴う腎機能・体液バランスの変化によって
リチウム血中濃度も変動するため、
通常より慎重なTDMが必要になります。
授乳中は?
国内添付文書では、
リチウムが母乳中へ移行し乳児にも曝露される可能性があるため、
授乳を避けるよう記載されています。
自己判断で急にやめてもよい?
リチウムにはベンゾジアゼピンのような
典型的な身体依存はありません。
しかし、
急速な中止は双極症の再発リスクを高めるため、
長期服用中のリチウムを自己判断で突然中止することは勧められません。
中止する場合には、
過去の病相や再発リスクを踏まえて
計画的に減量します。
患者さん・ご家族に覚えてほしいこと
① 定期採血は「異常があるから」行うわけではありません。
リチウムを安全に長期間使用するための
「定期点検」と考えてください。
② 脱水に注意してください。
夏場の大量発汗、発熱、嘔吐、下痢、
食事や水分が十分にとれない状態では、
血中濃度が上昇することがあります。
③ 市販の鎮痛薬にも注意してください。
NSAIDsを含む薬剤を使用するときは、
リチウムを服用していることを医師・薬剤師へ伝えてください。
④ 「いつもの震え」と違うと感じたら要注意です。
急に震えが大きくなる、ふらつく、
ろれつが回らない、強い眠気、下痢、嘔吐などが出た場合には、
中毒を考えて早めに医療機関へ相談してください。
よくある質問
維持療法では可能です。
国内添付文書でも維持量200〜800mg/日は
1日1〜3回で投与することが認められています。
長期維持期では夜1回にまとめることもありますが、
悪心や振戦などが目立つ場合には分割投与の方が適することがあります。
1日1回投与では腎臓への長期的な影響が少なくなる可能性があり、
腎障害予防策として提案するレビューもあります。
ただし直接比較研究は限られているため、
「1日1回なら腎障害を防げる」とまでは言えません。
中毒を避け、必要最小限の有効血中濃度を維持することも非常に重要です。
原則として必要です。
用量が少なくても、腎機能、脱水、併用薬などによって
血中濃度が変化するためです。
必ずしもそうではありません。
血中濃度だけでなく、
振戦、ふらつき、構音障害、意識状態などの症状も重要です。
絶対的な併用禁忌ではありませんが、
NSAIDsはリチウム濃度を上昇させる可能性があります。
自己判断で連用せず、主治医へ相談してください。
極端に大量の水を飲む必要はありません。
大切なのは脱水を避け、
水分・塩分摂取を急激に変化させないことです。
一律には決まりません。
過去の躁病・抑うつエピソードの回数や重症度、
自殺リスク、リチウムへの反応、
副作用などを踏まえて維持期間を判断します。
新しさだけで優劣は決まりません。
リチウムには長期再発予防について
非常に豊富な臨床経験とエビデンスがあります。
一方で、TDMや腎・甲状腺管理が必要であり、
患者さんごとにメリットと負担を比較して選択します。
精神科医から見たリチウムの本質
執筆者の個人的見解
リチウムの難しさは、
「古い薬だから副作用が多い」ということではありません。
本質的には、
効果、血中濃度、腎機能、甲状腺、
水分・Naバランス、併用薬を一体として管理する必要がある薬
だという点にあります。
維持期には1日1回投与という選択肢もあり、
服薬継続や腎臓への影響まで含めて投与方法を最適化できます。
この管理が適切にできるのであれば、
リチウムは現在でも双極症の長期治療において
非常に価値の高い選択肢です。
逆に、
採血をほとんど行わず、
漫然と同じ量を続けるのであれば、
リチウムの長所よりリスクが前面に出てしまいます。
私自身は、
「リチウムを処方する」というより、
「リチウム治療を管理する」
という感覚で扱う薬だと考えています。
まとめ
リーマス(炭酸リチウム)は、
双極症治療で長い歴史を持つ代表的な気分安定薬です。
国内では躁病・躁状態に承認されていますが、
現代の双極症診療では、
躁病と抑うつ双方の再発を防ぐ維持療法でも
重要な位置を占めています。
維持療法では1日1回投与も可能です。
夜1回投与は服薬継続の面で便利であり、
腎臓への長期的影響を軽減できる可能性もありますが、
腎保護効果が確立しているとまでは言えません。
リチウムでは投与回数以上に、
中毒を避け、
その患者さんに必要な最低限の有効血中濃度を維持し、
腎機能、甲状腺機能、カルシウム、
水分・塩分摂取、併用薬を継続的に確認することが重要です。
リチウムは古い薬ですが、
適切なTDMと身体管理まで含めて治療すれば、
現在でも双極症の長期治療を支える重要な薬剤です。

ライトメンタルクリニック 渋谷本院 院長
清水聖童 (Seido Shimizu)
精神保健指定医 /
日本精神神経学会認定専門医 /
認知症サポート医 /
コンサータ処方登録医
引用・参考文献
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・日本うつ病学会.日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023.
・日本精神神経学会・日本うつ病学会・日本神経精神薬理学会ほか.妊婦に対する炭酸リチウム投与の禁忌解除を受けて―適正使用に関するお願い―.2026.
・Schoot TS, et al.Systematic review and practical guideline for the prevention and management
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・井上猛ほか編.『こころの治療薬ハンドブック 第16版』星和書店; 2026.
・樋口輝彦ほか編.『今日の精神疾患治療指針 第2版』医学書院; 2016.
・姫井昭男.『精神科の薬がわかる本 第5版』医学書院; 2024.
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