トリヘキシフェニジル(アーテン)の効果・作用機序・副作用・使い方を徹底解説

目次
はじめに
抗精神病薬による治療中に、「手が震える」「身体がこわばる」「動きにくくなった」といった症状が現れることがあります。
こうした症状は、抗精神病薬によって脳内のドパミン作用が低下することで生じる薬剤性パーキンソニズムなどの錐体外路症状の可能性があります。
このような症状の治療に用いられる代表的な薬の一つが、トリヘキシフェニジル塩酸塩(商品名:アーテン)です。
トリヘキシフェニジルは、脳内のアセチルコリンの働きを抑える中枢性抗コリン薬で、日本では1953年から使用されている歴史の長い薬剤です。
精神科では、薬剤性パーキンソニズムだけでなく、向精神薬によるアカシジアに対してもしばしば使用されます。一方、抗コリン薬であればすべての錐体外路症状に有効というわけではなく、遅発性ジスキネジアではむしろ症状を悪化させることがあります。
この記事では、トリヘキシフェニジルの作用機序、効果、飲み方、副作用に加えて、薬剤性パーキンソニズム・アカシジア・遅発性ジスキネジアの違いなど、精神科診療で重要なポイントまで解説します。
この記事のポイント
- トリヘキシフェニジルは、中枢性のムスカリン受容体を遮断する抗コリン薬です
- 薬剤性パーキンソニズムでは、特に振戦や筋固縮などの改善に用いられます
- 日本では向精神薬によるアカシジアにも適応があり、精神科臨床でしばしば使用されます
- 遅発性ジスキネジアには通常使用せず、かえって症状を悪化させることがあります
- 口渇・便秘だけでなく、認知機能低下、せん妄、幻覚など中枢性抗コリン作用にも注意が必要です
トリヘキシフェニジル(アーテン)とは?
トリヘキシフェニジルは、脳内のムスカリン性アセチルコリン受容体を遮断する抗コリン薬です。
特に大脳基底核の線条体におけるドパミンとアセチルコリンの機能的なバランスを調整することで、パーキンソニズムに伴う振戦や筋固縮などを改善します。
トリヘキシフェニジル塩酸塩(Trihexyphenidyl Hydrochloride)
アーテン錠:1錠中2mg/アーテン散:1g中10mg
アーテン錠(2mg)・アーテン散1%など
中枢性抗コリン薬/パーキンソン症候群治療剤
特発性・その他のパーキンソニズム、向精神薬によるパーキンソニズム・ジスキネジア(遅発性を除く)・アカシジア
約17.6時間
健常成人男性にトリヘキシフェニジル塩酸塩8mgを単回経口投与したデータでは、最高血中濃度到達時間(Tmax)は約1.2時間、血中半減期(T1/2)は約17.6時間でした。
「錐体外路症状なら何でもアーテン」ではありません薬剤性パーキンソニズム、アカシジア、急性ジストニア、遅発性ジスキネジアなどは、同じ「錐体外路症状」とまとめられることがありますが、病態も治療も異なります。特に遅発性ジスキネジアに抗コリン薬を漫然と使用しないことが重要です。
トリヘキシフェニジルはどのように効く?作用機序
トリヘキシフェニジルの作用を理解するためには、線条体におけるドパミンとアセチルコリンの関係を知っておくことが重要です。

ドパミンとアセチルコリンのバランス
身体の動きを調節する大脳基底核、特に線条体では、ドパミン系とアセチルコリン系が相互に作用しながら運動を調節しています。
古典的な薬理学の模式図として理解しやすく表現すると、線条体ではドパミンを「抑制側」、アセチルコリンを「興奮側」として両者が拮抗するように説明されることがあります。
この考え方は、パーキンソニズムでドパミン機能が低下すると、相対的にアセチルコリンの影響が強くなり、抗コリン薬によってそのバランスを戻すという治療原理を理解するうえでは有用です。
実際の大脳基底核回路はもう少し複雑ですドパミンそのものが一律に「抑制性神経伝達物質」という意味ではありません。線条体では、ドパミンはD1受容体を介して直接路を促進する一方、D2受容体を介して間接路を抑制するなど、受容体と神経回路によって作用が異なります。
同様にアセチルコリンにも複数のムスカリン受容体が存在します。そのため、より正確には「ドパミン系とコリン作動系が拮抗しながら運動回路を調節している」と理解するとよいでしょう。
ドパミン機能が低下するとコリン作動性神経の影響が相対的に強くなる
パーキンソン病では、黒質から線条体へ投射する黒質線条体ドパミン神経が減少します。
一方、抗精神病薬による薬剤性パーキンソニズムでは、主として線条体に存在するD2受容体が遮断されることによってドパミン神経伝達が低下します。
またはD2受容体遮断
→
線条体のドパミン機能低下
→
コリン作動性神経伝達が相対的に優位
→
振戦・筋固縮・動作緩慢など
ムスカリン受容体を遮断する
トリヘキシフェニジルは、中枢神経系のムスカリン性アセチルコリン受容体を遮断します。
アセチルコリンの働きを抑えることで、ドパミン機能低下によって相対的にコリン作動性神経の影響が強くなった状態を調整し、振戦や筋固縮などの症状を改善します。
つまり、レボドパのようにドパミンそのものを補う薬ではなく、
と理解すると作用機序を把握しやすいでしょう。
なお、中枢作用を治療に利用する薬ですが、末梢のムスカリン受容体にも作用するため、口渇、便秘、排尿困難、散瞳などの抗コリン性副作用が生じます。
精神科ではどのようなときに使う?
薬剤性パーキンソニズム
精神科診療でトリヘキシフェニジルを使用する代表的な場面が、抗精神病薬による薬剤性パーキンソニズムです。
主な症状として、
- 手足の震え
- 筋肉のこわばり・筋固縮
- 動作が遅くなる
- 歩幅が小さくなる
- 表情が乏しくなる
- 姿勢や動作がぎこちなくなる
などがみられます。
抗精神病薬が黒質線条体系のD2受容体を遮断することで、線条体のドパミン作用が低下して生じます。
まず原因となった抗精神病薬を調整できないか検討します薬剤性パーキンソニズムが生じた場合、単純に抗コリン薬を追加するだけではありません。可能であれば、原因となっている抗精神病薬の減量や、錐体外路症状を起こしにくい薬剤への変更が可能かを検討します。
原因薬の調整だけでは対応が難しい場合や症状が強い場合には、トリヘキシフェニジルなどによる対症療法を検討します。
特に振戦や筋固縮が目立つ薬剤性パーキンソニズムでは、代表的な治療選択肢の一つです。
アカシジア
アカシジアは、
- 足がそわそわする
- じっと座っていられない
- 身体を動かさずにはいられない
- 立ったり歩いたりすると少し楽になる
といった、強い静座不能感を特徴とする薬剤性運動障害です。
日本ではトリヘキシフェニジルは、向精神薬投与によるアカシジアにも正式な適応があり、精神科臨床ではアカシジアに対してしばしば使用されています。
一方、アカシジアに対する抗コリン薬の治療効果は、薬剤性パーキンソニズムほど一貫しているわけではありません。
近年のレビューやガイドラインでは、抗コリン薬をアカシジア全般に routinely 使用することを支持するエビデンスは限定的とされており、原因薬の減量・変更や、症例に応じてβ遮断薬など他の治療法も検討されます。
アカシジア+パーキンソニズムでは選択しやすいアカシジアだけでなく、同時に振戦や筋固縮などの薬剤性パーキンソニズムがみられる場合には、トリヘキシフェニジルによって両方の症状の改善を期待できることがあり、臨床的には選択しやすくなります。
パーキンソン病・その他のパーキンソニズム
トリヘキシフェニジルは、特発性パーキンソニズムや脳炎後・動脈硬化性などのパーキンソニズムにも適応があります。
パーキンソン症状の中では、特に振戦や筋固縮に対する改善効果が知られています。
一方、高齢者では認知機能低下、せん妄、便秘、排尿障害などの抗コリン性副作用が問題になりやすいため、現在のパーキンソン病治療では年齢や認知機能、併存疾患などを考慮して使用を判断します。
遅発性ジスキネジアには通常使用しない
精神科医療では特に重要なポイントです。
抗精神病薬を長期間使用している患者さんでは、
- 口をもぐもぐ動かす
- 舌を突き出す
- 唇をすぼめる
- 顔面をしかめる
- 手足や体幹が勝手に動く
といった遅発性ジスキネジアが生じることがあります。
トリヘキシフェニジルは、遅発性ジスキネジアの治療薬ではありません。
遅発性ジスキネジアでは悪化することがありますアーテンの電子添文でも、遅発性ジスキネジアは適応から除外されています。また、抗パーキンソン病薬によって遅発性ジスキネジアが増悪・顕在化する場合があるとされています。
したがって、
を区別して治療することが重要です。
トリヘキシフェニジルの飲み方・用量
向精神薬によるパーキンソニズム・ジスキネジア・アカシジア
成人では通常、トリヘキシフェニジル塩酸塩として1日2~10mgを3~4回に分けて服用します。年齢や症状に応じて適宜増減します。
少量から開始し、症状と副作用を確認しながら慎重に調整します。
特発性パーキンソニズムなど
第1日目:1mg
第2日目:2mg
以後、1日につき2mgずつ増量し、1日6~10mgを維持量として3~4回に分けて服用します。
他の抗パーキンソン病薬から切り替える場合にも、前の薬を急に中止するのではなく、徐々に減量しながらトリヘキシフェニジルを増量することが原則です。
トリヘキシフェニジルの主な副作用
トリヘキシフェニジルの副作用の多くは、アセチルコリンの働きを抑える抗コリン作用によって説明できます。
口渇・便秘など
比較的代表的な副作用として、
- 口渇
- 便秘
- 悪心・嘔吐
- 食欲不振
などがあります。
抗精神病薬や三環系抗うつ薬など、他にも抗コリン作用を持つ薬を併用している場合には、作用が重なって強く現れることがあります。
排尿困難・尿閉
抗コリン作用によって膀胱の収縮が抑えられ、尿が出にくくなることがあります。
特に前立腺肥大などによる尿路閉塞がある場合には注意が必要です。
目のかすみ・散瞳・眼圧上昇
眼の調節機能にもアセチルコリンが関与しているため、
- 目がかすむ
- ピントが合いにくい
- 瞳孔が開く
などの症状が生じることがあります。
閉塞隅角緑内障には使用できませんトリヘキシフェニジルは抗コリン作用によって眼圧を上昇させる可能性があるため、閉塞隅角緑内障は禁忌です。開放隅角緑内障でも慎重な管理が必要です。
精神症状・認知機能への影響
トリヘキシフェニジルは脳内で作用する中枢性抗コリン薬であるため、身体的な副作用だけでなく精神神経系への影響にも注意が必要です。
重大な副作用として、
- 精神錯乱
- 幻覚
- せん妄
などが報告されています。
その他にも、
- 見当識障害
- 興奮・神経過敏
- 気分高揚・多幸感
- 眠気
- めまい
などがみられることがあります。
高齢者では特に注意します高齢者では、せん妄、不安などの精神症状に加え、口渇、便秘、排尿困難などの抗コリン作用が出現しやすいとされています。認知機能が低下している患者さんでは、少量でも状態が変化することがあります。
抗コリン負荷という考え方
精神科では、トリヘキシフェニジルだけでなく、
- 一部の抗精神病薬
- 三環系抗うつ薬
- 抗ヒスタミン薬
- 一部の睡眠薬
- 過活動膀胱などに使用する薬
など複数の薬剤から抗コリン作用が積み重なっていることがあります。
この総合的な影響を抗コリン負荷(anticholinergic burden)と呼びます。
抗コリン負荷が高くなるほど、便秘・尿閉だけでなく、認知機能低下、せん妄、転倒などが問題になる可能性があります。
急に中止してもよい?
トリヘキシフェニジルを長期間服用している場合には、自己判断で突然中止することは避けます。
抗コリン薬を急速に中止すると、発汗、不眠、焦燥、悪心などのコリン作動性リバウンドが生じたり、パーキンソニズムが再び目立ったりすることがあります。
また、抗精神病薬、抗うつ薬、ドパミン作動性抗パーキンソン病薬などとの併用中に、本剤や併用薬を減量・中止した際には、悪性症候群が報告されています。
減量するときも状態を確認します長期間服用している場合には、症状の再燃や離脱症状を確認しながら、必要に応じて段階的に減量します。
使用できない場合・注意が必要な場合
使用できない場合
トリヘキシフェニジルは、以下の場合には使用できません。
- 閉塞隅角緑内障
- 重症筋無力症
- トリヘキシフェニジルに対する過敏症の既往
特に注意が必要な場合
以下の場合には抗コリン作用によって症状が悪化する可能性があります。
- 開放隅角緑内障
- 前立腺肥大などの尿路閉塞
- 不整脈・頻脈傾向
- 高血圧
- 胃腸管の閉塞性疾患
- 高温環境
- 腎機能障害・肝機能障害
- 高齢者
特に高温環境では発汗が抑えられることで、体温調節が難しくなることがあります。
服用中の運転にも注意
トリヘキシフェニジルでは、
- 眠気
- 眼の調節障害
- 注意力・集中力の低下
- 反射機能の低下
が生じることがあります。
自動車の運転などは避けます電子添文では、服用中は自動車の運転など危険を伴う機械操作に従事させないよう注意することとされています。
よくある質問
アーテンは抗精神病薬の副作用止めですか?
主に薬剤性パーキンソニズムなどの運動性副作用に使用される薬です。ただし、すべての抗精神病薬の副作用を予防・治療する薬ではありません。症状に応じて原因薬の減量や変更も検討します。
アカシジアにも使いますか?
日本では向精神薬によるアカシジアにも適応があり、精神科臨床ではしばしば使用されています。一方、抗コリン薬のアカシジアに対するエビデンスは薬剤性パーキンソニズムほど強くなく、原因薬の調整や他の治療法も含めて判断します。
遅発性ジスキネジアにも使えますか?
通常は使用しません。遅発性ジスキネジアはアーテンの適応から除外されており、抗コリン薬によって症状が悪化・顕在化する可能性があります。
長期間飲み続けても大丈夫ですか?
症状によって継続が必要なことはありますが、漫然とした長期投与は避けます。特に高齢者では認知機能低下、せん妄、便秘、排尿障害などの抗コリン性副作用が問題になりやすいため、定期的に必要性を見直します。
アーテンを急にやめても大丈夫ですか?
長期間服用している場合には急な中止を避けます。パーキンソニズムの再燃やコリン作動性リバウンドなどが生じることがあるため、必要に応じて症状を確認しながら段階的に減量します。
まとめ
トリヘキシフェニジル(アーテン)は、線条体のムスカリン性アセチルコリン受容体を遮断し、ドパミン機能低下によって相対的に優位となったコリン作動性神経伝達を抑える中枢性抗コリン薬です。
精神科では、抗精神病薬による薬剤性パーキンソニズムの代表的な治療選択肢であり、日本では向精神薬によるアカシジアにも適応があり、臨床でしばしば使用されます。ただし、アカシジアに対するエビデンスは薬剤性パーキンソニズムほど一貫しておらず、原因薬の調整や他の治療選択肢も考慮します。
一方、遅発性ジスキネジアには通常使用せず、むしろ症状を悪化させる可能性があります。同じ「錐体外路症状」とまとめず、病型を見分けることが重要です。
また、口渇、便秘、排尿障害だけでなく、せん妄、幻覚、認知機能低下などの中枢性抗コリン作用にも注意が必要です。特に高齢者では、他の薬剤も含めた抗コリン負荷全体を評価し、漫然投与を避けることが重要になります。

ライトメンタルクリニック 渋谷院 院長
清水聖童 (Seido Shimizu)
精神保健指定医 / 日本精神神経学会認定専門医 / 認知症サポート医 / コンサータ処方登録医
引用・参考文献
・独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA). アーテン錠(2mg)/アーテン散1% 電子添文. 2021年6月改訂.
・ファイザー株式会社. アーテン錠(2mg)/アーテン散1% 医薬品インタビューフォーム.
・井上猛, 桑原斉, 酒井隆, 鈴木映二, 水上勝義, 宮田久嗣, 諸川由実代, 吉尾隆, 渡邉博幸 編. こころの治療薬ハンドブック 第16版. 星和書店; 2026.
・樋口輝彦, 市川宏伸, 神庭重信, 朝田隆, 中込和幸 編. 今日の精神疾患治療指針 第2版. 医学書院; 2016.
・姫井昭男. 精神科の薬がわかる本 第5版. 医学書院; 2024.
・Vanegas-Arroyave N, Caroff SN, Citrome L, et al. An Evidence-Based Update on Anticholinergic Use for Drug-Induced Movement Disorders. CNS Drugs. 2024;38:239-254.
・Pringsheim T, Gardner D, Addington D, et al. The Assessment and Treatment of Antipsychotic-Induced Akathisia. Can J Psychiatry. 2018;63:719-729.
.png)




