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【精神科専門医解説】ニセルゴリン(サアミオン)の効果・作用機序・副作用|脳梗塞後の意欲低下への使い方

  • 更新日:2026.09.20
  • 公開日:2026.09.20

はじめに

ニセルゴリン(商品名:サアミオン)は、
脳血流、血液流動性、神経伝達、脳のエネルギー代謝などに多面的に作用する
脳循環・代謝改善剤です。

日本では、
「脳梗塞後遺症に伴う慢性脳循環障害による意欲低下の改善」
に適応があります。

脳梗塞後には、麻痺や失語などの神経症状だけでなく、
「以前ならしていたことを自分から始めなくなった」
「周囲から促されないと動かない」
「趣味や家族への関心が薄れた」
といった意欲・自発性の低下がみられることがあります。

このような状態は臨床的にアパシー(apathy)として
捉えられることがあります。
一方で、
うつ病、
認知機能低下、せん妄、
不眠などの睡眠障害、
身体疾患、薬剤の影響などでも活動性は低下するため、
「やる気がない」という症状だけでニセルゴリンを使用するわけではありません。

この記事のポイント

  • ニセルゴリンは、脳梗塞後の慢性脳循環障害に伴う意欲低下に使用されます。
  • 脳血流・微小循環・ACh/DA神経伝達・脳エネルギー代謝へ多面的に作用します。
  • 通常成人では1日15mgを3回に分けて服用します。
  • 臨床では2か月前後で一度、反応の有無を確認することが多くあります。
  • 3か月(12週)投与して効果が認められなければ中止します。
  • 認知症全般や一般的な無気力に漫然と使用する薬ではありません。

ニセルゴリン(サアミオン)とは?

ニセルゴリンは半合成麦角誘導体に分類される薬剤です。
「脳循環改善薬」として説明されることもありますが、
実際の薬理作用は血管拡張だけではありません。

脳血流の改善に加えて、血小板・赤血球を介した血液流動性、
アセチルコリン・ドパミン神経伝達、
脳細胞のエネルギー代謝などにも作用することが特徴です。

一般名
ニセルゴリン(Nicergoline)
代表的商品名
サアミオン錠5mg/サアミオン散1%
薬効分類
脳循環・代謝改善剤
国内承認適応

脳梗塞後遺症に伴う慢性脳循環障害による意欲低下
通常用量
15mg/日を3回に分けて服用
半減期

約3.3時間
(主要代謝物1-MMDL、15mg単回投与時の参考値)
効果確認の目安
2か月前後で反応を確認
無効時の判断
3か月(12週)で効果がなければ中止


半減期3.3時間は「ニセルゴリンそのもの」の値ではありません

ニセルゴリンとして15mgを単回投与した試験では、
主要代謝物1-MMDLの消失半減期は3.3±1.7時間
と報告されています。

したがって「ニセルゴリンの半減期=3.3時間」と単純化するより、
主要代謝物1-MMDLの血中動態として約3.3時間
と理解する方が正確です。

ニセルゴリンの作用機序

ニセルゴリンの薬理を理解するポイントは、
「脳血流」「微小循環」「神経伝達」「脳代謝」
の4つです。

ニセルゴリン(サアミオン)の作用機序。脳血流改善、微小循環改善、アセチルコリン・ドパミン神経伝達、脳代謝改善を示す図
ニセルゴリンは、脳循環だけでなく神経伝達や脳エネルギー代謝にも多面的に作用します。
脳血流改善
+
微小循環改善
+
ACh・DA系への作用
+
脳代謝改善

① 脳血流を改善する

ニセルゴリンにはαアドレナリン受容体遮断作用を含む血管作用があり、
血管抵抗を低下させて脳血流を改善する方向に働きます。

脳血管障害患者では、
内頸動脈・椎骨動脈の血流増加や、
虚血病巣部での脳血流増加が報告されています。


「α1遮断薬」とだけ覚えるのは不十分

ニセルゴリンにはα1アドレナリン受容体遮断作用がありますが、
その臨床作用を「α1遮断 → 血管拡張」だけで説明することはできません。

血液流動性、神経伝達、脳エネルギー代謝への作用まで含めた
多面的な脳循環・代謝改善作用として理解する方が適切です。

② 血小板・赤血球に作用し、微小循環を改善する

ニセルゴリンには、血管そのものへの作用だけでなく、
血液を微小血管内で流れやすくする作用も報告されています。

血液流動性への主な作用

  • ADPやコラーゲンなどによる血小板凝集の抑制
  • 赤血球変形能の改善
  • PAF(血小板活性化因子)産生能の抑制

赤血球は、毛細血管のような細い血管を通過するときに、
自らの形を柔軟に変化させる必要があります。
この赤血球変形能が改善することで、
微小循環レベルでの血液流動性改善につながると考えられています。

③ アセチルコリン・ドパミン神経伝達に作用する

精神科・神経内科的に興味深いのが、
アセチルコリン(ACh)系とドパミン(DA)系
への作用です。

動物実験では、加齢によって低下した
コリンアセチルトランスフェラーゼ活性、
ムスカリン性アセチルコリン受容体結合能、
海馬でのアセチルコリン遊離などを改善する作用が報告されています。

また、アセチルコリンエステラーゼ活性への作用や、
反復投与によるドパミン代謝回転の促進も報告されています。


「ドパミンを増やして、やる気を出す薬」とは言い切れません

ドパミン系への薬理作用はありますが、
脳梗塞後の意欲低下改善を単一のドパミン作用だけで説明することはできません。

脳血流、微小循環、アセチルコリン系、ドパミン系、
エネルギー代謝への作用が複合的に関与すると考えるのが適切です。

④ 脳のエネルギー代謝を改善する

脳虚血では、酸素やグルコースの供給が低下し、
神経細胞のエネルギー産生が障害されます。

ニセルゴリンは実験モデルにおいて、
グルコース、ATP、ピルビン酸などの脳エネルギー関連物質の代謝障害を改善
する作用を示しています。


単なる「脳血管拡張薬」ではない

ニセルゴリンは、脳へ血液を届ける過程だけでなく、
神経伝達や神経細胞のエネルギー利用にも作用する点が特徴です。

ニセルゴリンの効果・適応

脳梗塞後の意欲低下・アパシー

日本で承認されている効能・効果は、
「脳梗塞後遺症に伴う慢性脳循環障害による意欲低下の改善」
です。

脳梗塞後には、運動麻痺や言語障害だけでなく、
次のような行動・精神面の変化がみられることがあります。

  • 以前していたことを自分から始めなくなった
  • 周囲から促されないと行動しない
  • 趣味や日常生活への関心が低下した
  • 会話や他者との交流が減った
  • リハビリテーションへの自発的な参加が乏しい

このような行動開始・自発性・動機づけの低下を、
アパシーとして捉える場合があります。

アパシーとうつ病は同じではありません

アパシーと
うつ病は、
外から見ると「何もしなくなった」という似た状態にみえることがあります。
しかし、中心となる症状は異なります。

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比較 アパシー うつ病
中心となる特徴 自発性・行動開始・動機づけの低下 抑うつ気分、興味・喜びの喪失など
感情面 必ずしも強い悲しみや自責感を伴わない 悲観、自責、絶望感などを伴うことがある
治療 背景となる神経学的病態を踏まえて治療
薬物療法・心理療法など

を病態に応じて検討
ニセルゴリン 脳梗塞後の慢性脳循環障害に伴う意欲低下が適応 うつ病
そのものに対する抗うつ薬ではない

「やる気がない=アパシー」ではありません

アパシーと
うつ病
は併存することもあります。

認知機能低下、せん妄、
不眠障害、
身体疾患、鎮静性の薬剤などでも活動性は低下するため、
「意欲低下」という一つの症状だけで薬を選択しないことが重要です。

脳梗塞後の意欲低下に対する臨床試験

国内再評価時に行われたプラセボ対照二重盲検比較試験では、
脳梗塞後遺症患者に対してニセルゴリンの有効性が検討されています。

精神症候全般
34.5%
ニセルゴリン群・改善以上
精神症候全般
13.5%
プラセボ群・改善以上
意欲低下
29.9%
ニセルゴリン群・改善以上
意欲低下
9.4%
プラセボ群・改善以上

ニセルゴリン群ではプラセボ群より改善率が高かった一方で、
すべての患者さんに効果がみられるわけではありません。

そのため、「なんとなく脳に良さそう」という理由で継続するのではなく、
治療開始時に評価する症状を決め、
実際に自発性や活動性が改善しているかを確認することが重要です。

脳梗塞後でも、症状によって使用する薬は異なります

脳梗塞後に精神・行動面の変化がみられる場合でも、
どの症状を治療しようとしているのかによって
使用される薬剤は大きく異なります。

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薬剤 主な治療方向 薬理学的特徴
ニセルゴリン
(サアミオン)
脳梗塞後の意欲低下を改善する方向 脳循環・微小循環・神経伝達・脳代謝への多面的作用

アマンタジン
(シンメトレル)
脳梗塞後の意欲・自発性低下を改善する方向 ドパミン神経伝達促進・NMDA受容体拮抗作用など

チアプリド
(グラマリール)
脳梗塞後の精神興奮・攻撃性・徘徊などを抑える方向 ドパミンD2受容体遮断

同じ「脳梗塞後」でも、薬の向いている方向が逆になることがあります

ニセルゴリンや
アマンタジン(シンメトレル)
は、意欲・自発性が低下している状態に対して使用されます。

一方、
チアプリド(グラマリール)
はドパミンD2受容体を遮断し、
脳梗塞後の精神興奮、攻撃的行為、徘徊などを
抑える方向に使用される薬剤です。

したがって「脳梗塞後」という診断名だけでなく、
現在の患者さんが
活動性低下なのか、逆に過剰な興奮なのか
を見極めることが重要です。

ニセルゴリンは認知症の薬?

ニセルゴリンは海外では、
認知機能障害や認知症に対して研究・使用されてきた歴史があります。

また、アセチルコリン系への作用や脳代謝改善作用があることから、
「認知機能改善薬」のように説明されることもあります。


日本では認知症そのものは承認適応ではありません

現在の日本で承認されている効能・効果は、
脳梗塞後遺症に伴う慢性脳循環障害による意欲低下の改善
です。

アルツハイマー型認知症などに対する標準的な認知症治療薬として
ニセルゴリンを位置づけることはできません。

ニセルゴリンの用法・用量


通常成人:1日15mgを3回に分けて服用

通常成人には、ニセルゴリンとして
1日量15mgを3回に分けて経口投与します。
年齢や症状により適宜増減されます。

サアミオン錠5mg
通常1日3錠
サアミオン散1%
通常1日1.5g

効果はいつ判断する?

ニセルゴリンは、服用直後に劇的な変化を期待する薬ではありません。


臨床では、まず2か月前後で反応を確認

実臨床では、
2か月前後を一つの目安として、
意欲・自発性・活動性に改善傾向があるか

を確認することが多くあります。

治療開始
→
2か月前後で反応確認
→
3か月(12週)で継続判断


3か月(12週)で効果がなければ中止

添付文書では、
投与12週で効果が認められない場合には投与を中止する
ことが明記されています。

「以前から飲んでいるから」
「脳に良さそうだから」
という理由だけで漫然と長期継続する薬ではありません。

何をみて「効いた」と判断する?

単に「元気になった気がする」という印象だけではなく、
治療開始前に具体的な評価項目を決めておくと判断しやすくなります。

  • 自分から会話を始める場面が増えたか
  • 自発的にベッドや椅子から動くことが増えたか
  • 食事・着替え・外出などの日常生活への参加が増えたか
  • リハビリテーションへの参加状況が改善したか
  • 趣味や家族への関心が戻ってきたか

飲み忘れた場合

飲み忘れに気づいた場合、
次の服用時間まで十分時間がある場合には1回分を服用します。
次の服用時間が近い場合には、
忘れた分を飛ばして次の1回分を服用してください。


2回分をまとめて飲まないでください

飲み忘れた分を補うために、一度に2回分を服用することは避けてください。

ニセルゴリンの副作用

ニセルゴリンは長く使用されてきた薬剤ですが、
副作用がないわけではありません。

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領域 主な副作用
消化器 食欲不振、下痢、便秘、悪心、腹痛、口渇など
循環器 めまい、立ちくらみ、動悸、ほてりなど
精神神経系 眠気、倦怠感、頭痛、耳鳴、不眠など
過敏症 発疹、そう痒、蕁麻疹など
肝臓 肝機能障害など

高齢者では、めまい・立ちくらみからの転倒に注意

ニセルゴリンを使用する患者さんには高齢者も多いため、
めまいや立ちくらみが転倒・骨折につながらないかを確認することが重要です。

ニセルゴリンを使用するときの注意点

頭蓋内出血後、止血が完成していない場合は使用できません


止血が完成していない頭蓋内出血では禁忌


頭蓋内出血後、止血が完成していないと考えられる患者さんには投与できません。

ニセルゴリンには血液流動性や血小板凝集に対する作用があり、
出血を助長するおそれがあるためです。

抗血小板薬の代わりになる薬ではありません


薬理作用と脳梗塞再発予防のエビデンスは分けて考えます

ニセルゴリンには血小板凝集抑制作用がありますが、
これはアスピリンなどによる
脳梗塞二次予防の抗血小板療法と同義ではありません。

高齢者

添付文書では、高齢者では一般に生理機能が低下しているため、
減量するなど注意して投与することとされています。

高齢者で確認したいポイント

  • 血圧・起立性低血圧
  • めまい・ふらつき・転倒
  • 多剤併用
  • 肝機能・腎機能
  • 実際に治療効果が続いているか

精神科で「意欲低下」を診るときの考え方

精神科では、
「やる気がない」「一日中何もしない」「以前と性格が変わった」
といった訴えを診察する機会が少なくありません。

しかし、同じ「意欲低下」であっても、
原因によって治療は大きく異なります。

意欲低下
→

アパシー・うつ病・認知機能低下・せん妄・薬剤性などを評価

→
原因に応じた治療


薬理作用から適応を広げすぎない

ニセルゴリンには、
アセチルコリン・ドパミン系や脳代謝への興味深い作用があります。

しかし、それらの基礎薬理だけを根拠に、
一般的な
うつ病、
無気力、認知症へ広く使用する薬と考えるのは適切ではありません。

ニセルゴリン(サアミオン)のよくある質問

ニセルゴリンは認知症の薬ですか?

日本では認知症そのものに対する承認適応はありません。
国内で承認されているのは、
脳梗塞後遺症に伴う慢性脳循環障害による意欲低下の改善です。

うつ病の意欲低下にも使いますか?

ニセルゴリンは抗うつ薬ではありません。
うつ病
による意欲低下が主体であれば、
うつ病そのものに対する治療を検討することが基本です。

どのくらいで効果を判断しますか?

臨床では2か月前後で一度反応を確認することが多く、
3か月(12週)投与しても効果が認められない場合には中止します。

半減期はどのくらいですか?

ニセルゴリンとして15mg単回投与した試験では、
主要代謝物1-MMDLの消失半減期は約3.3時間でした。
これはニセルゴリン親化合物そのものではなく、
主要代謝物の血中動態を示す参考値です。


アマンタジン(シンメトレル)

とはどう違いますか?

アマンタジン
はドパミン神経伝達促進作用やNMDA受容体拮抗作用などを持ちます。
ニセルゴリンは、
脳循環・血液流動性・神経伝達・脳代謝への多面的な作用を特徴とします。


チアプリド(グラマリール)

とはどう違いますか?

ニセルゴリンは脳梗塞後の意欲低下を改善する方向に使用されます。
一方、
チアプリドは
ドパミンD2受容体を遮断し、
脳梗塞後の精神興奮、攻撃的行為、徘徊などを
抑える方向に使用されます。

長く飲み続けてもよいですか?

効果が確認できている場合には、
臨床効果と副作用を評価しながら継続を検討します。
一方、効果が不明確なまま漫然と長期継続することは避けます。

まとめ

ニセルゴリン(サアミオン)は、
日本では
脳梗塞後遺症に伴う慢性脳循環障害による意欲低下
に使用される脳循環・代謝改善剤です。

作用は単なる血管拡張にとどまらず、

脳血流改善、血液流動性改善、
アセチルコリン・ドパミン神経伝達への作用、
脳エネルギー代謝改善

と多面的です。

臨床では2か月前後で一度反応を確認し、
自発性・活動性に改善傾向があるかを評価します。
3か月(12週)投与しても効果が認められない場合には中止
します。

また、脳梗塞後であっても、
意欲・自発性低下にはニセルゴリンや
アマンタジン、
精神興奮・攻撃性などには
チアプリド
というように、標的症状によって治療方向が大きく異なります。

「脳梗塞後」という診断名だけではなく、
現在どの症状を治療しようとしているのかを明確にすることが重要です。

執筆者
清水聖童

ライトメンタルクリニック 渋谷本院 院長

清水聖童
(Seido Shimizu)

精神保健指定医 /
日本精神神経学会認定専門医 /
認知症サポート医 /
コンサータ処方登録医

引用・参考文献

・独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA). サアミオン錠5mg/サアミオン散1% 添付文書. 2025年12月改訂.

・田辺ファーマ株式会社. サアミオン錠5mg/サアミオン散1% 医薬品インタビューフォーム.

・沢井製薬株式会社. ニセルゴリン錠5mg「サワイ」/ニセルゴリン細粒1%「サワイ」添付文書. 薬物動態・生物学的同等性試験.

・Winblad B, Fioravanti M, Dolezal T, et al. Therapeutic use of nicergoline. Clin Drug Investig. 2008;28(9):533-552.

・Fioravanti M, Flicker L. Efficacy of nicergoline in dementia and other age associated forms of cognitive impairment. Cochrane Database Syst Rev.

・井上猛, 桑原斉, 酒井隆, 鈴木映二, 水上勝義, 宮田久嗣, 諸川由実代, 吉尾隆, 渡邉博幸 編. こころの治療薬ハンドブック 第16版. 星和書店; 2026.

・樋口輝彦, 市川宏伸, 神庭重信, 朝田隆, 中込和幸 編. 今日の精神疾患治療指針 第2版. 医学書院; 2016.

・姫井昭男. 精神科の薬がわかる本 第5版. 医学書院; 2024.

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