【精神科専門医解説】チアプリド(グラマリール)の効果・作用機序・副作用|脳梗塞後の興奮・BPSD・ジスキネジアへの使い方

目次
はじめに
チアプリド(商品名:グラマリール)は、
脳内のドパミンD2受容体を主に遮断するベンザミド系薬剤です。
精神科・老年精神科では、高齢者の精神興奮や不穏に関連して使用されることがありますが、
単なる「鎮静薬」ではありません。
日本では、脳梗塞後遺症に伴う攻撃的行為・精神興奮・徘徊・せん妄の改善に加えて、
特発性ジスキネジア、パーキンソニズムに伴うジスキネジアにも適応があります。
チアプリドはドパミンD2受容体を遮断し、精神興奮や一部の異常不随意運動を抑える薬です。
一方で、D2受容体遮断が強くなると、薬剤性パーキンソニズム、アカシジア、ジストニア、
嚥下障害などの錐体外路症状を起こすことがあります。
また主として腎臓から排泄されるため、高齢者や腎機能低下例では特に慎重な投与が必要です。
チアプリド(グラマリール)とは?
チアプリドは、ドパミン受容体の中でも特に
D2受容体を遮断する薬剤です。
ドパミン神経伝達が過剰になっている状態を抑えることで、
脳梗塞後の精神興奮や一部の不随意運動を改善します。
クロルプロマジンなど、複数の神経伝達物質受容体へ広く作用する古典的な抗精神病薬と比べると、
薬理学的には比較的ドパミン系への作用が中心となる薬剤です。
チアプリド塩酸塩
グラマリール
錠25mg・錠50mg・細粒10%
ベンザミド系ドパミンD2受容体遮断薬
脳梗塞後遺症に伴う攻撃的行為・精神興奮・徘徊・せん妄、特発性ジスキネジア、パーキンソニズムに伴うジスキネジア
通常成人75~150mg/日を3回に分割
健康成人:約3.91時間
腎排泄
半減期は約4時間ですが、腎機能によって大きく変わります
健康成人にチアプリド100mgを単回投与した試験では、
投与後約2時間で最高血中濃度に達し、
消失半減期は約3.91時間でした。
一方、チアプリドは体内で大きく代謝される薬ではなく、
投与後24時間までに投与量の約7割が未変化体として尿中に排泄されます。
そのため、臨床上は腎機能が薬物動態を大きく左右することが重要です。
チアプリドの血中濃度が上昇したり、作用が長く残ったりする可能性があります。
眠気、ふらつき、動作緩慢、筋強剛、歩行障害、嚥下障害などが出現した場合には、
原疾患や加齢だけでなく、チアプリドの蓄積やD2遮断作用も評価する必要があります。
チアプリドの作用機序
チアプリドの作用を理解する中心は、
ドパミンD2受容体の遮断です。

一方、遮断が強くなりすぎると錐体外路症状やパーキンソニズムを起こすことがあります。
① ドパミンD2受容体を遮断する
ドパミンは、運動、意欲、情動、報酬、認知などさまざまな脳機能に関係する神経伝達物質です。
チアプリドはD2受容体を遮断することで、
過剰なドパミン神経伝達を抑制します。
過剰なドパミン神経伝達
D2受容体を遮断
ドパミン伝達を抑制
精神興奮・一部の異常運動を軽減
② 他の受容体への作用は比較的少ない
チアプリドは、ドパミン受容体以外の各種神経伝達物質受容体への作用が比較的弱く、
薬理学的にはドパミンD2受容体遮断作用が中心となります。
「他の受容体への作用が少ない=副作用が少ない」ではありません
チアプリドではD2受容体そのものを遮断することで、
薬剤性パーキンソニズム、アカシジア、ジストニア、
高プロラクチン血症などが生じることがあります。
③ ジスキネジアを改善する一方で、パーキンソニズムを起こすことがあります
チアプリドの薬理学的特徴として重要なのが、
「異常運動を改善する薬でありながら、別の異常運動を起こすこともある」
という二面性です。
過剰なドパミン神経伝達が関与する一部のジスキネジアでは、
D2受容体を適度に遮断することで症状が軽減します。
一方、黒質線条体系のドパミン作用を抑えすぎると、
振戦、筋強剛、動作緩慢、歩行障害などのパーキンソニズムが出現します。
ドパミン作用を適度に抑制
一部のジスキネジアを軽減
D2遮断が過剰
パーキンソニズム・EPS
チアプリドの効果・適応
脳梗塞後の精神興奮・攻撃的行為・徘徊・せん妄
チアプリドの精神科領域で特徴的なのが、
脳梗塞後遺症に伴う行動・精神症状に国内承認適応を持っていることです。
急に興奮・せん妄が出た場合は、薬を追加する前に原因を探します
高齢者の急激な興奮やせん妄には、
感染症、脱水、疼痛、便秘、尿閉、低酸素、電解質異常、
睡眠不足、環境変化、薬剤の副作用などが隠れていることがあります。
原因治療が可能な身体疾患を見落とさないことが重要です。
血管性認知症のBPSD
BPSDとは、
Behavioral and Psychological Symptoms of Dementiaの略で、
認知症に伴う行動・心理症状を指します。
易怒性、興奮、攻撃性、幻覚、妄想、不安、睡眠障害などさまざまな症状が含まれます。
チアプリドは認知症全般に対して承認された薬ではありませんが、
脳梗塞後遺症に伴う精神症状への適応を背景として、
血管性認知症に伴う易刺激性・焦燥性興奮で使用が検討されることがあります。
「認知症の興奮=チアプリド」ではありません
認知症の病型、身体疾患、疼痛、薬剤、せん妄、睡眠、
介護環境などを評価し、原因治療や非薬物的な対応を優先することが基本です。
認知症に伴う易怒性や興奮などで使用されることのある漢方薬については、
抑肝散、
抑肝散加陳皮半夏
の記事でも解説しています。
特発性ジスキネジア
チアプリドには特発性ジスキネジアにも承認適応があります。
ジスキネジアとは、自分の意思とは関係なく、
口、舌、顔面、手足、体幹などが繰り返し動いてしまう不随意運動の総称です。
D2受容体を遮断し、
過剰なドパミン神経伝達を抑えることで、
一部のジスキネジアを改善すると考えられています。
パーキンソニズムに伴うジスキネジア
チアプリドはパーキンソニズムに伴うジスキネジアにも使用されます。
しかし、ドパミンD2受容体を遮断する薬であるため、
ジスキネジアを抑えようとして作用が強くなりすぎると、
無動や筋強剛などのパーキンソニズム自体を悪化させる可能性があります。
パーキンソニズムに伴うジスキネジアでは少量から開始します
この病態では、チアプリド25mgを1日1回から開始することが望ましいとされています。
パーキンソン病で用いられるドパミン作動薬については、
ロピニロール(レキップ)、
プラミペキソール(ビ・シフロール)
の記事でも詳しく解説しています。
レボドパの作用を長く保つ
エンタカポン(コムタン)
についても別記事で解説しています。
遅発性ジスキネジアとは区別して考えます
精神科診療では、「ジスキネジア」という言葉が複数の異なる病態に使われます。
特に抗精神病薬を長期間使用した後に生じる
遅発性ジスキネジア(TD)は、
チアプリドの承認適応として記載されている
「特発性ジスキネジア」「パーキンソニズムに伴うジスキネジア」と
同一ではありません。
遅発性ジスキネジアでは、
原因となる薬剤の評価に加えて、
VMAT2阻害薬の
バルベナジン(ジスバル)
が治療選択肢となります。
薬剤性パーキンソニズム、アカシジア、急性ジストニア、
遅発性ジスキネジア、レボドパ誘発性ジスキネジアなどでは、
原因も治療法も異なります。
チアプリドの用法・用量
通常成人
通常、チアプリドとして
1日75~150mgを3回に分けて服用します。
年齢や症状によって適宜増減します。
パーキンソニズムに伴うジスキネジア
25mgを1日1回から開始することが望ましいとされています。
高齢者
腎機能低下や副作用を考慮して、
例えば1回25mgを1日1~2回など、
低用量から慎重に開始します。
脳梗塞後遺症では6週間が重要な評価点です
脳梗塞後遺症に伴う攻撃的行為、精神興奮、徘徊、せん妄に使用する場合、
効果が不明確なまま漫然と継続するべきではありません。
6週間で効果が認められなければ中止します
脳梗塞後遺症に対してチアプリドを投与し、
6週間で明らかな効果が認められない場合には投与を中止します。
チアプリドの主な副作用
錐体外路症状(EPS)
チアプリドで精神科的に特に注意したい副作用が、
錐体外路症状(EPS)です。
| 症状 | 主な特徴 |
|---|---|
| 薬剤性パーキンソニズム | 振戦、筋強剛、動作緩慢、流涎、歩行障害、表情の乏しさなど |
| アカシジア | じっとしていられない、足を動かしたくなる、強い落ち着かなさなど |
| ジストニア | 首、眼球、顎、体幹などの持続的な異常筋収縮 |
| 嚥下障害 | むせ、食事速度低下、食事摂取量低下、誤嚥リスクの上昇 |
錐体外路症状に使用されることのある薬剤については、
トリヘキシフェニジル(アーテン)、
ビペリデン(アキネトン)、
プロメタジン(ピレチア)
の記事でも解説しています。
また、
アマンタジン(シンメトレル)
が薬剤性パーキンソニズムなどで使用される場合もあります。
高齢者では「静かになった=治療成功」とは限りません
興奮が減っていても、
動作が遅くなった、歩けなくなった、表情が乏しくなった、
食事が進まない、むせるようになった場合には、
薬剤性パーキンソニズム、過鎮静、嚥下障害などを疑う必要があります。
眠気・めまい・ふらつき
眠気、めまい、ふらつき、脱力感などがみられることがあります。
特に高齢者では、これらの副作用が転倒や骨折につながる可能性があります。
高プロラクチン血症
ドパミンは下垂体においてプロラクチン分泌を抑える方向に働いています。
チアプリドによってD2受容体を遮断すると、
プロラクチンが上昇し、
乳汁分泌、月経異常、女性化乳房などが生じることがあります。
プロラクチン分泌性下垂体腫瘍では禁忌です
プロラクチノーマでは、ドパミンD2受容体遮断によって
病態に悪影響を与える可能性があるため使用できません。
高プロラクチン血症やプロラクチノーマに使用されるドパミン作動薬については、
カベルゴリン(カバサール)、
ブロモクリプチン(パーロデル)
の記事でも解説しています。
QT延長・心室性不整脈
QT延長・Torsade de Pointesを含む心室性不整脈
頻度は高くありませんが、重大な副作用として注意が必要です。
もともとQT延長がある患者、著明な徐脈、低カリウム血症、
QTを延長する他剤を使用している場合には、より慎重に使用します。
悪性症候群
高熱・筋強剛・意識障害があれば悪性症候群に注意
強い筋強剛、無動、嚥下困難、高熱、発汗、頻脈、
血圧変動、意識障害などが出現した場合には、
悪性症候群を疑って速やかな評価が必要です。
高齢者でチアプリドを使用するときのポイント
① 腎機能を確認する
チアプリドは主として腎臓から排泄されます。
高齢者では筋肉量が少ないため、
血清クレアチニン値が一見正常でも、
実際には腎機能が低下していることがあります。
年齢、体格、eGFR、Ccrなどを踏まえて投与量を検討します。
② 歩行・嚥下・日中活動性まで評価する
D2遮断
動作緩慢・筋強剛
歩行能力低下
転倒・廃用・ADL低下
また、嚥下機能が低下すると誤嚥性肺炎につながる可能性があります。
③ BPSDの原因そのものを再評価する
「怒りっぽくなった」「落ち着かない」「歩き回る」といった症状は、
必ずしも認知症そのものだけで生じるわけではありません。
疼痛、便秘、尿閉、睡眠環境、騒音、薬剤、
介護者とのコミュニケーションなどを調整することで、
症状が改善する場合があります。
チアプリドと脳梗塞後に使われる薬の違い
脳梗塞後に使用される薬でも、
標的とする症状は薬剤によって異なります。
| 薬剤 | 主な治療方向 | 特徴 |
|---|---|---|
| チアプリド | 精神興奮・攻撃性・徘徊などを抑える方向 | D2受容体遮断 |
| ニセルゴリン | 脳梗塞後の意欲低下を改善する方向 | 脳循環・神経伝達・脳代謝などへの作用 |
| アマンタジン | 脳梗塞後の意欲・自発性低下を改善する方向 | ドパミン神経伝達促進・NMDA受容体拮抗作用など |
チアプリドは過剰な興奮を抑える方向に作用しますが、
ニセルゴリン(サアミオン)や
アマンタジン(シンメトレル)は、
意欲・自発性低下に対して使用されます。
「脳梗塞後」という診断名だけではなく、
現在どの症状を治療しようとしているのかを明確にすることが重要です。
チアプリドとパーキンソン病治療薬の関係
チアプリドはD2受容体を遮断します。
一方、パーキンソン病治療では、
ドパミン作用を高める薬が多く使用されます。
例えば、
ロピニロール(レキップ)や
プラミペキソール(ビ・シフロール)
はドパミン受容体を直接刺激するドパミンアゴニストです。
また、
エンタカポン(コムタン)
はレボドパの末梢代謝を抑え、
ドパミン補充療法の作用時間を延長する薬です。
パーキンソン病治療薬とは薬理学的に逆方向へ働く場合があります
パーキンソニズムにチアプリドを使用する場合には、
ジスキネジアを抑える利益と、
無動・筋強剛などを悪化させるリスクの両方を評価します。
チアプリド(グラマリール)のよくある質問
Q. チアプリドは抗精神病薬ですか?
ドパミンD2受容体を遮断するという点では、
抗精神病薬と共通する薬理作用を持っています。
ただし日本で承認されている主な適応は統合失調症ではなく、
脳梗塞後遺症に伴う精神症状とジスキネジアです。
Q. 認知症の興奮に使えますか?
血管性認知症の易刺激性・焦燥性興奮などでは、
使用が検討されることがあります。
ただし認知症全般のBPSDに対して機械的に使用する薬ではありません。
Q. 眠らせるための薬ですか?
いいえ。
主作用は睡眠作用ではなく、
ドパミンD2受容体遮断です。
副作用として眠気が出ることはありますが、
単に患者さんを眠らせる目的で使用する薬ではありません。
Q. 高齢者では何mgから始めますか?
電子添文では、高齢者について、
例えば1回25mgを1日1~2回などの低用量から開始することが例示されています。
実際の投与量は年齢、腎機能、体格、症状、併用薬などによって調整します。
Q. 腎機能が悪くても使えますか?
一律に使用できないわけではありませんが、
腎機能が低下すると排泄が遅くなり、
チアプリドの作用が強く・長く出る可能性があります。
低用量から開始し、副作用を慎重に評価します。
Q. 脳梗塞後の興奮にはどのくらい続けますか?
電子添文では、
6週間投与して効果が認められない場合には中止することとされています。
効果がある場合でも、漫然と長期継続せず、
定期的に必要性を再評価することが重要です。
Q. ジスキネジアなら何でもチアプリドを使いますか?
いいえ。
ジスキネジアには複数の原因があります。
抗精神病薬の長期使用に伴う遅発性ジスキネジアでは、
バルベナジン(ジスバル)
など別の治療選択肢があります。
まとめ
チアプリド(グラマリール)は、
ドパミンD2受容体を主に遮断するベンザミド系薬剤です。
日本では、脳梗塞後遺症に伴う攻撃的行為・精神興奮・徘徊・せん妄と、
特発性ジスキネジア、パーキンソニズムに伴うジスキネジアに使用されます。
一方で、D2受容体を遮断するため、
薬剤性パーキンソニズム、アカシジア、ジストニア、嚥下障害、
高プロラクチン血症などを起こす可能性があります。
さらにチアプリドは主として腎臓から排泄されるため、
高齢者や腎機能低下患者では少量から慎重に使用することが重要です。
高齢者では単に「静かになった」ことを治療成功とせず、
歩行、表情、会話、食事、嚥下、日中活動性、
ADLまで含めて評価する必要があります。

ライトメンタルクリニック 渋谷院 院長
清水聖童 (Seido Shimizu)
精神保健指定医 /
日本精神神経学会認定専門医 /
認知症サポート医 /
コンサータ処方登録医
引用・参考文献
・独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA). グラマリール錠25mg/グラマリール錠50mg/グラマリール細粒10% 電子添文.
・日医工株式会社. グラマリール錠25mg/50mg/細粒10% 医薬品インタビューフォーム.
・厚生労働科学研究班. かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン 第3版. 2025.
・井上猛, 桑原斉, 酒井隆, 鈴木映二, 水上勝義, 宮田久嗣, 諸川由実代, 吉尾隆, 渡邉博幸 編. こころの治療薬ハンドブック 第16版. 星和書店; 2026.
・樋口輝彦, 市川宏伸, 神庭重信, 朝田隆, 中込和幸 編. 今日の精神疾患治療指針 第2版. 医学書院; 2016.
・姫井昭男. 精神科の薬がわかる本 第5版. 医学書院; 2024.
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