メンタルヘルスコラム

【精神科専門医解説】パキシル(パロキセチン)の効果・副作用|離脱症状・体重増加・CR錠・現在の使いどころ

  • 更新日:2026.09.27
  • 公開日:2026.09.27

はじめに

パキシル(一般名:パロキセチン)は、
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
に分類される抗うつ薬です。

うつ病だけでなく、
パニック障害、強迫性障害、社会不安障害、
外傷後ストレス障害(PTSD)まで幅広い領域で使用されてきました。

2000年代の精神科臨床では非常に存在感の大きかったSSRIですが、
現在は
レクサプロ(エスシタロプラム)
など、薬物相互作用や中断症状の面で扱いやすい抗うつ薬も増え、
以前より新規処方の場面は絞られてきています。

ただし、
「古い薬だから効果も弱い」
という理解は適切ではありません。

パロキセチンには、
強いSERT阻害作用、幅広い不安症への適応、
一方で中断症状、CYP2D6阻害、性機能障害、体重増加、抗コリン作用

という非常に個性的な特徴があります。

本記事では客観的な薬理・エビデンスだけでなく、
現在の精神科診療で
どのような患者さんならあえてパロキセチンを選ぶのか
という実臨床の視点まで解説します。

この記事のポイント
パロキセチンは現在でも十分な治療効果を期待できるSSRIですが、
中断症状、性機能、体重、CYP2D6相互作用などを考えると、
「誰にでも最初に使う薬」ではなく、
患者さんを選んで使う薬という位置づけになっています。


現在の「パキシル」について

先発品のパキシル錠5mg・10mg・20mgは販売中止となり、
2025年3月に経過措置期間も終了しています。

現在も同成分のジェネリック
パロキセチン錠5mg・10mg・20mg
は使用できます。

一方、
パキシルCR錠6.25mg・12.5mg・25mg
は現在も販売されています。

なお、パキシルCR錠の国内承認適応は
うつ病・うつ状態のみです。

パロキセチンの基本情報

一般名
パロキセチン塩酸塩水和物
代表商品名
パキシル/パキシルCR
薬効分類
SSRI
通常錠の国内承認適応

うつ病・うつ状態/パニック障害/強迫性障害/社会不安障害/PTSD
CR錠の国内承認適応
うつ病・うつ状態
服用
原則1日1回夕食後
主な代謝酵素
CYP2D6
薬物動態
飽和性を伴う非線形動態

パキシルの作用機序

パロキセチンの中心的な作用は、
神経終末にある
セロトニントランスポーター(SERT)の阻害
です。

神経細胞から放出されたセロトニンは、
通常SERTによって再び神経終末へ取り込まれます。

パロキセチンはこの過程を阻害し、
シナプス間隙のセロトニン作用を高めます。

SERT阻害
→
5-HT再取り込み低下
→
シナプス間5-HT増加
→
セロトニン神経伝達を調整

パキシル(パロキセチン)の作用機序
パロキセチンはSERTを阻害してセロトニン再取り込みを抑制します。
CYP2D6阻害も臨床上重要な特徴です。

SSRIの中でもSERT阻害作用は強い部類

パロキセチンは、
SSRIの中でもSERTへの親和性が高い薬剤として知られています。

ただし、
SERTへの親和性が強いことと、
臨床効果が他のSSRIより必ず強いことは同じではありません。

抗うつ薬の効果は、
薬理学的な親和性だけではなく、
患者さんごとの病態や薬物動態、
忍容性などにも大きく左右されます。

高用量になるとSNRI化する?

パロキセチンには試験管内では
ノルアドレナリントランスポーター(NET)への親和性も報告されています。

このため以前から、
「高用量ではノルアドレナリン作用が加わり、
SNRIのようになるのではないか」
という議論がありました。

しかし、うつ病患者で20~50mg/日を検討した研究では、
50mg/日まで増量しても臨床的に明瞭なNET阻害は確認されませんでした。

この点は、
高用量でNET作用が明確になってくる
イフェクサーSR(ベンラファキシン)
とは区別する必要があります。


執筆者の個人的見解|それでも高用量まで試す意味はある

私は、
「パキシルを高用量にするとSNRIになる」から増量する、
とは考えていません。

一方で、
20mg程度で部分反応があり、
副作用にも問題がなく、
まだ症状が残っている患者さんでは、
承認された上限量まで増量して反応を確認することには意味があると考えています。

特に強迫症では、
抗うつ薬治療よりも高いSSRI用量が必要になることが多く、
パロキセチンも最大50mg/日まで承認されています。

実臨床では、
低用量では変化が乏しかった患者さんが、
一定量以上で明瞭に改善することがあります。

これはNET作用が加わったと証明されているわけではありませんが、
「少量で効かなければパキシル自体が無効」と早く判断しすぎない
ことは重要だと思います。

CYP2D6自己阻害と非線形薬物動態

パロキセチンは主として
CYP2D6
によって代謝されます。

一方で、
パロキセチン自身がCYP2D6を強く阻害します。

さらにパロキセチンの代謝は飽和しやすく、
用量を増加したとき、
血中濃度が投与量に単純比例して増えるとは限らない
非線形薬物動態
を示します。

したがって、
20mgから40mgへ増量したからといって、
体内曝露量がきれいに2倍になるわけではありません。

高用量域では、
効果だけでなく、
眠気、性機能、発汗、悪心などの副作用もみながら
慎重に調節します。

抗コリン作用|他のSSRIとは少し違う

パロキセチンは、
SSRIとしては
抗コリン作用を比較的意識する薬剤
です。

口渇、便秘、排尿しにくさ、
眠気などが問題となることがあります。

特に高齢者では、
抗コリン負荷によって
認知機能、注意力、せん妄、転倒などへの影響が生じないか注意します。

2023年のAGS Beers Criteriaでも、
パロキセチンは
強い抗コリン作用を有する薬剤のリスト
に含まれています。


高齢者では新規導入の優先順位が下がりやすい

高齢者に絶対使用できない薬という意味ではありません。

ただし、新たに抗うつ薬を開始する場面では、
より抗コリン作用の少ない薬剤を選択できないか検討することが多くなります。

現在のパキシルの位置づけ

パロキセチンは、
「昔の薬だから効かない薬」ではありません。

むしろ、
うつ病だけでなく、
パニック障害、強迫性障害、社会不安障害、PTSDまで
幅広く使われてきた実績のあるSSRI

です。

一方、
現在は
レクサプロ
など、
より相互作用が少なく、
減薬もしやすい薬剤があります。

そのため新規処方では、
パロキセチンを第一選択にする場面が以前より少なくなっています。


強み


適応が広い


うつ・パニック・OCD・SAD・PTSD


弱点


中断症状


飲み忘れにも注意


現在の使い方


患者を選ぶ


効いた既往・不安・強迫などを考慮


執筆者の個人的見解|「第一選択からは後退したが、切れるカード」

私自身、
パロキセチンを
初めて抗うつ薬を使う患者さんへ機械的に第一選択することは少なくなりました。

理由は効果が弱いからではありません。

中断症状、性機能障害、体重増加、
CYP2D6相互作用、
高齢者での抗コリン負荷、
妊娠を考える患者さんでの扱いなど、
処方を開始した後に考えなければならないことが多い薬だからです。

特に若い患者さんでは、
「今効くか」だけでなく、
数年後にどうやって減らすか
まで考えて薬を選択した方がよいと思います。

一方、
パロキセチンが非常によく効く患者さんもいます。

過去にパロキセチンで明確に改善した患者さん、
不安・パニック・強迫症状が強い患者さん、
他のSSRIでは十分な反応が得られなかった患者さんでは、
現在でも積極的に検討する価値があります。

私の処方感としては、
効く症例では比較的「切れ味」を感じることがあるSSRI
です。

したがって、
「古いから使わない薬」ではなく、
第一選択からは一歩後退したものの、
患者さんを選べば現在でも切れるカード

という位置づけです。

どのような病気に使われる?

うつ病・うつ状態

抑うつ気分、
興味・喜びの低下、
意欲低下などに対する抗うつ薬として使用されます。

特に不安や緊張を強く伴ううつ状態でも使用されてきました。

パニック障害

パキシルはパニック障害に国内適応を持つSSRIです。

パニック発作だけでなく、
「また発作が起こるのではないか」という予期不安や、
電車・外出・人混みなどへの回避行動を含めて改善を目指します。

強迫性障害

強迫観念や強迫行為の軽減を目的として使用します。

強迫症では、
うつ病より高用量のSSRIが必要になることがあり、
パロキセチンは最大50mg/日まで承認されています。

薬物療法とともに、
曝露反応妨害法(ERP)を中心とした認知行動療法も重要です。

より専門的な治療については、

強迫症・不安症専門外来

もご覧ください。

社会不安障害

人前で話す、
注目される、
会議や発表をする、
人と食事をするといった場面への
強い恐怖・不安に対して使用されます。

外傷後ストレス障害(PTSD)

パロキセチン通常錠は、
日本でPTSDに正式な適応を持っています。

再体験、
回避、
過覚醒、
不安・抑うつなどの症状をみながら使用します。

PTSDでは薬物療法だけでなく、
トラウマ焦点化心理療法やEMDRなども重要です。

詳しくは

PTSDについて

や

トラウマ・PTSD専門外来

もご覧ください。

用法・用量

適応 開始量 通常量 最大量
うつ病・うつ状態 10~20mg/日 20~40mg/日 40mg/日
パニック障害 10mg/日 30mg/日 30mg/日
強迫性障害 20mg/日 40mg/日 50mg/日
社会不安障害 10mg/日 20mg/日 40mg/日
PTSD 10~20mg/日 20mg/日 40mg/日

通常は1日1回夕食後に服用し、
増量する場合は原則として1週間以上の間隔をあけ、
10mg/日ずつ増量します。

5mg錠は電子添文上、
原則として
減量または中止時に使用する製剤
とされています。

パキシルCR錠とは?

CRは
Controlled Release(放出制御)
を意味します。

パキシルCR錠は
二層構造の腸溶性徐放錠で、
通常錠よりゆっくりと薬剤が放出されるよう設計されています。

国内適応は
うつ病・うつ状態のみ
です。

項目 通常錠 CR錠
現在の製品 先発品販売終了
ジェネリックあり
パキシルCR販売中
適応 うつ病・うつ状態
パニック障害
強迫性障害
社会不安障害
PTSD
うつ病・うつ状態
開始量 適応により10~20mg 12.5mg
通常量 適応により異なる 25mg/日
最大量 適応により30~50mg 50mg/日
減量用量 5mg 6.25mg
特徴 用量調整しやすい 吸収・血中濃度上昇が緩やか

CR錠は初期悪心を減らす可能性がある

パロキセチンCRと通常錠を比較した海外試験では、
治療開始1週目の悪心は
CR錠14%、通常錠23%
と、CR錠で少ない結果が報告されています。

日本・韓国で行われた試験でも、
CR錠を12.5mgから開始した群では
初期悪心が少ない傾向が示されています。

つまりCR錠には、
治療開始時の消化器症状を緩和する可能性
があります。


執筆者の個人的見解|副作用に敏感な人ではCR錠を使いたくなる

悪心や身体感覚への不安が強く、
「少し気持ち悪くなっただけで服薬をやめてしまいそう」
という患者さんでは、
私はCR錠を選択したくなることがあります。

血中濃度の立ち上がりが比較的緩やかなため、
臨床的には
通常錠より導入が穏やかに感じられる症例
があります。

また、焦燥や賦活感が出ることを心配する患者さんでも、
CR錠を選びたくなることがあります。

ただし、
CR錠がActivation syndromeを有意に減らすこと自体は確立していません。

したがって、
これは製剤特性と実臨床での使用感に基づく私個人の処方感であり、
「CRならActivationが起きない」という意味ではありません。

効果はいつから出る?

パロキセチンは、
服用直後から不安を止める薬ではありません。

副作用は開始早期から起こることがありますが、
抗うつ・抗不安効果は
数週間単位
で評価します。

強迫症や社会不安症では、
十分な用量まで増量したあと、
さらに一定期間かけて治療効果を判断することがあります。


執筆者の個人的見解|効く症例では「不安が落ちる」印象が明瞭なことがある

パロキセチンは、
私の臨床経験では
不安、予期不安、反芻、パニックなどが前景にある患者さんで、
効果がはっきり分かることがあります。

これは他のSSRIより必ず優れているという意味ではありません。

一方で、
「パキシルは古いので弱い」
という印象は私にはありません。

反応する患者さんでは、
比較的明瞭な変化がみられることがあり、
この意味で今も処方候補として残しておく価値があると考えています。

主な副作用

吐き気・消化器症状

悪心、食欲低下、下痢などは
SSRIで比較的よくみられる副作用です。

多くは治療開始早期にみられ、
時間とともに軽減することがあります。

眠気・鎮静

眠気、だるさ、めまいなどが出ることがあります。

治療開始時・増量時には
自動車運転などに十分注意します。


執筆者の個人的見解|比較的「鎮静寄り」に感じることがある

SSRIを厳密に
「鎮静型」「賦活型」
と分類できるわけではありませんが、
私はパロキセチンを
臨床上やや鎮静寄りに感じることがあります。

不安・焦燥・不眠が非常に強い患者さんでは、
この処方感が有利に働くことがあります。

一方、
日中の眠気や倦怠感が強い患者さん、
活動性をできるだけ落としたくない患者さんでは、
他剤を優先することがあります。

性機能障害

パロキセチンでは、
性欲低下、射精遅延、無射精、
オルガズム障害、勃起障害

などが問題となることがあります。

健康成人を対象としたランダム化比較試験でも、
パロキセチン20mgはプラセボより
有意に性機能を悪化させています。

性機能への影響が大きい場合には、
用量調整や薬剤変更を検討します。

候補としては

トリンテリックス(ボルチオキセチン)

などがあります。

体重増加

パロキセチンは、
体重増加を比較的意識する抗うつ薬です。

ただし、
「パキシルを飲めば大きく太る」
と単純に考えるのも正確ではありません。

18万人以上を対象とした2024年の研究では、
セルトラリンと比較した6か月後の平均体重差は
約+0.37kg
でした。

また、
ベースラインから5%以上体重が増加するリスクも
セルトラリンよりやや高い結果でした。

平均値の差は大きくありませんが、
個人差が大きいため、
体重変化を経時的に確認します。


執筆者の個人的見解|体重増加にはCBT-OB的に介入する

薬を変更するだけが体重管理ではありません。

パロキセチン開始後に明らかに体重が増えてきた場合、
私は
「何kg増えたか」だけでなく、
食欲、間食、夜食、食事時刻、活動量、
ストレス時の摂食、睡眠などを具体的に確認

します。

必要に応じて、
肥満に対する認知行動療法(CBT-OB)で使われる
セルフモニタリング、
規則的な食事、
食行動のトリガー分析などの考え方を利用することがあります。

一方で、
薬剤開始後の体重増加が明確で、
患者さんにとって重大な問題となっているのであれば、
生活指導だけで無理に押し切るのではなく、
抗うつ薬そのものの変更も検討します。

口渇・便秘

抗コリン作用に関連して、
口渇や便秘などを認めることがあります。

高齢者では特に、
他の抗コリン作用薬との合計負荷を確認します。

低ナトリウム血症・SIADH

SSRIでは、
低ナトリウム血症や
SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)が
起こることがあります。

特に高齢者では注意が必要です。

Activation syndromeと躁転

パロキセチンを含む抗うつ薬では、
開始後や増量後に
不安、焦燥、興奮、不眠、易刺激性、
アカシジア様の落ち着かなさなどが
出現することがあります。

いわゆる
Activation syndrome(賦活症候群)
として扱われる症状です。

また、
背景に双極性障害がある場合には、
軽躁・躁状態や病相の不安定化が起こる可能性があります。

治療開始前には、
過去の躁状態・軽躁状態、
抗うつ薬で異常に活動的になった既往、
周期性のある気分変動などを確認します。

18歳未満・若年者への使用


小児・思春期では成人と同じ感覚で使用しない

海外で行われた7~18歳の大うつ病性障害に対する
プラセボ対照試験では、
パロキセチンの有効性が確認されませんでした。

また、
自殺念慮、自殺企図、
情動不安定、激越などへの注意が必要です。

電子添文でも、
18歳未満の大うつ病性障害へ投与する際には
適応を慎重に検討するよう警告されています。

CYP2D6阻害と薬物相互作用

パロキセチンを処方するときに
非常に重要なのが
CYP2D6阻害
です。

CYP2D6で代謝される薬剤を併用した場合、
相手薬の血中濃度や作用が増強することがあります。

薬剤・薬剤群 注意点
MAO阻害薬 併用禁忌。
セロトニン症候群などの重篤な副作用に注意
ピモジド 併用禁忌
リスペリドンなど CYP2D6阻害により血中濃度や作用が増強する可能性
アリピプラゾール 強いCYP2D6阻害薬との併用で血中曝露量上昇に注意
アトモキセチン 血中濃度上昇に注意
メトプロロール等 β遮断作用増強に注意
タモキシフェン 活性代謝物エンドキシフェンへの変換が低下する可能性
他のセロトニン作動薬 セロトニン症候群に注意

タモキシフェンとの併用

タモキシフェンはCYP2D6によって
活性代謝物であるエンドキシフェンへ変換されます。

パロキセチンがCYP2D6を阻害すると、
この変換が抑制される可能性があります。


「併用禁忌」ではないが、できれば避けたい組み合わせ

タモキシフェンとパロキセチンは、
電子添文上の併用禁忌ではありません。

しかし薬理学的に重要な相互作用であり、
タモキシフェン治療中に新たに抗うつ薬を開始する場合には、
CYP2D6阻害の弱い薬剤を選択できないか検討します。

妊娠とパロキセチン

妊娠中の抗うつ薬治療では、
薬剤への曝露だけでなく、
うつ病や不安症を治療しないリスク
も考える必要があります。

パロキセチンでは、
妊娠第1三半期の曝露と
先天性心血管系異常との関連を示した海外疫学研究があり、
電子添文にも注意が記載されています。

電子添文に引用されている研究の一つでは、
心血管系異常の発生率が
一般集団で約1%、
パロキセチン曝露群で約2%と報告されています。

したがって、
これから妊娠を希望する患者さんへ
新規にSSRIを開始する場合には、
他剤を選択できないか検討することがあります。


妊娠が分かっても自己判断で突然中止しない

すでにパロキセチンで安定している患者さんが妊娠した場合、
今日から突然中止することが最善とは限りません。

急な中止による中断症状、
原疾患の再燃、
妊娠中の精神状態悪化なども考慮し、
精神科と産婦人科で利益とリスクを検討します。

パキシル最大の弱点|中断症状

現在パロキセチンを処方するときに
最も強く意識したい特徴の一つが、
減量・中止時の中断症状
です。

急な中止だけではなく、
飲み忘れでも起こることがあります。

代表的な症状には、
めまい、
ふらつき、
電気ショック様感覚、
しびれ、
不眠、
悪夢、
不安、
焦燥、
吐き気、
発汗、
頭痛、
下痢などがあります。

パロキセチンとベンラファキシンは特に注意
NICEでも、
パロキセチンと

イフェクサーSR(ベンラファキシン)

は中断症状が起こりやすいため、
特に慎重に減量する薬剤として挙げられています。

依存とは違う

中断症状が強いと、
「薬に依存してしまった」
と感じる患者さんもいます。

しかし、
アルコールやベンゾジアゼピン系薬剤のような
報酬を求めて使用量が増えていく依存とは異なる現象です。

電子添文でも、
パロキセチンの中断症状は
薬物依存によるものではないと考えられています。

なぜパキシルは離脱症状が出やすい?

比較的短い半減期、
強いSERT阻害、
血中濃度の変化、
非線形薬物動態などが
中断症状の起こりやすさに関係すると考えられています。


執筆者の個人的見解|CYP2D6「アンブロッキング」仮説

パロキセチンは
自身の代謝酵素であるCYP2D6を強く阻害します。

そのため減量すると、
パロキセチン濃度低下に伴って
CYP2D6への阻害が弱まり、
残っているパロキセチンの代謝が相対的に速くなる可能性があります。

つまり、
減量 → CYP2D6自己阻害の解除 → さらに血中濃度が下がりやすくなる
という機序が、
低用量域での中断症状に一部影響しているのではないか、
という薬理学的仮説は興味深いと考えています。

ただし、
この「アンブロッキング」が
パロキセチン離脱症状の主要機序であると
臨床研究で確立されているわけではありません。

したがって私は、
離脱症状を考えるうえでの一つの薬物動態的仮説
として捉えています。

パキシルの減薬


原則:突然中止しない

電子添文では、
患者さんの状態を確認しながら
数週間または数か月かけて徐々に減量する
ことが推奨されています。

中断症状が強ければ、
一旦減量前の用量へ戻し、
症状が改善してから
より緩やかに減量することがあります。

通常錠では5mg、
CR錠では6.25mgという
減量に利用しやすい規格があります。


執筆者の個人的見解|パキシルは「最後の数mg」が難しいことがある

パロキセチンの減薬では、
20mgから10mgまでよりも、
10mgから5mg、5mgから中止という低用量域で難渋する患者さん
がいます。

過去に減量で強い中断症状が出た患者さんでは、
「10mgずつ減らす」
という固定的な方法ではなく、
低用量になるほど減量幅を小さくすることがあります。

数か月単位の減薬が必要になる症例もあり、
中断症状が出るからといって
無理に予定通り減らし続ける必要はありません。

海外では、
長半減期のフルオキセチンへ置換して離脱を緩和する
いわゆるBridge strategyが議論されることもあります。

ただしフルオキセチンは日本では承認されていないため、
国内の日常診療で標準的に行う方法ではありません。

日本では、
利用可能な低用量製剤を用いながら
患者さんの中断症状に合わせて減量速度そのものを調整する
のが現実的だと考えています。

他の抗うつ薬との臨床的な違い

薬剤 臨床上の特徴 特に意識する点
パロキセチン
パキシル
不安・パニック・強迫・PTSDまで適応が広い。
反応する症例では明瞭な改善を感じることがある
中断症状、性機能、体重、CYP2D6、抗コリン作用

エスシタロプラム
レクサプロ
効果・忍容性・相互作用のバランスがよく、
新規導入しやすいSSRI
QT延長、性機能、CYP2C19

ボルチオキセチン
トリンテリックス
認知症状や性機能を考慮するときに候補となる 悪心

ベンラファキシン
イフェクサーSR
高用量域ではNET阻害が加わるSNRI。
難治例で高用量まで検討しやすい
中断症状、血圧

デュロキセチン
サインバルタ
抑うつに慢性疼痛・身体愁訴を伴う場合に特徴を活かしやすい 悪心、血圧、肝機能

ミルタザピン
リフレックス
不眠・食欲低下・体重減少が目立つ場合に使いやすい 眠気、食欲増加、体重増加

執筆者の臨床的見解|どの患者さんなら今もパキシルを選ぶか


パキシルを検討しやすい患者さん

私が現在でもパロキセチンを比較的検討しやすいのは、
過去にパロキセチンで明瞭な改善歴がある患者さん
です。

抗うつ薬では、
「一般論としてどの薬が優れているか」よりも、
その患者さん自身に過去どの薬が効いたかという情報が
非常に重要です。

また、
パニック、強い予期不安、
強迫症状、
社会不安、
PTSDなど、
不安関連症状が前景にある場合にも候補となります。

特に部分反応があり、
忍容性にも問題がなければ、
承認上限まで十分量を試してから
無効と判断することがあります。

一方、
若年者で将来妊娠を考える可能性が高い場合、
高齢者、
多数のCYP2D6基質薬を併用している場合、
性機能を非常に重視する場合、
体重増加を避けたい場合、
過去に中断症状で苦労した場合などでは、
別の抗うつ薬を先に考えることが多くなります。

パロキセチンは、

「万能な第一選択薬」から
「特徴を理解したうえで使い分ける薬」
へと立ち位置が変わった

と考えると理解しやすいでしょう。

よくある質問

Q. パキシルは強い抗うつ薬ですか?

十分な抗うつ作用を持つ薬です。
ただし、他のSSRIより必ず治療効果が強いとはいえません。
反応には大きな個人差があります。

Q. パキシルは不安にも効きますか?

はい。
通常錠はパニック障害、強迫性障害、
社会不安障害、PTSDにも国内適応を持ち、
不安関連症状に長年使用されてきました。

Q. 高用量にするとSNRIになりますか?

現在のヒト研究では、
50mg/日まで増量しても
臨床的に意味のあるNET阻害は確認されていません。
したがって、高用量を「SNRI用量」と説明することは適切ではありません。

Q. パキシルは太りますか?

体重増加を比較的意識する抗うつ薬ですが、
全員が大幅に太るわけではありません。
開始前後の体重、食欲、食行動、活動量を確認しながら評価します。

Q. 性欲が落ちることはありますか?

あります。
性欲低下、射精遅延、オルガズム障害、
勃起障害などはパロキセチンで重要な副作用の一つです。

Q. パキシルには依存性がありますか?

アルコールやベンゾジアゼピン系薬剤のような
依存性を特徴とする薬ではありません。
ただし、急な中止では中断症状が起こりやすいため、
計画的な減量が必要です。

Q. 1日飲み忘れただけでも症状が出ますか?

個人差がありますが、
パロキセチンでは飲み忘れをきっかけに、
めまい、電撃様感覚、不安、違和感などを自覚する患者さんがいます。

Q. CR錠の方が副作用は少ないですか?

CR錠では治療開始初期の悪心が少なかった比較試験があります。
ただし、すべての副作用が少なくなるわけではなく、
Activation syndromeが減少することも確立していません。

Q. 急に中止してもよいですか?

推奨されません。
パロキセチンは特に中断症状を起こしやすい抗うつ薬の一つです。
数週間から数か月、
症例によってはそれ以上かけて減量することがあります。

まとめ

パロキセチンは、
SERTを強く阻害してセロトニン神経伝達を調整するSSRI
です。

通常錠では、
うつ病・うつ状態、
パニック障害、
強迫性障害、
社会不安障害、
PTSDという幅広い国内適応を持ちます。

一方、

中断症状、
性機能障害、
体重増加、
CYP2D6阻害、
抗コリン作用

は重要な弱点です。

このため現在は、
以前ほど新規処方の第一選択にはなりません。

ただし、
効果が弱くなった薬ではなく、
過去に良好な反応があった患者さんや、
不安・パニック・強迫症状などが前景にある患者さんでは、
現在でも十分に有用な治療選択肢です。

パロキセチンを使用するときには、

「どう開始するか」だけではなく、
将来どのように減量・終了するかまで考えた処方設計

が重要です。

執筆者

執筆者 清水聖童

医療法人社団燈心会 理事長/ライトメンタルクリニック 渋谷本院 院長

清水聖童 (Seido Shimizu)

精神保健指定医 /
日本精神神経学会認定精神科専門医 /
認知症サポート医 /
コンサータ・ビバンセ登録医

引用・参考文献

・独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA).
パキシル錠5mg/10mg/20mg 電子添文.
2025年12月改訂(第4版).

・独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA).
パキシルCR錠6.25mg/12.5mg/25mg 電子添文.
2025年12月改訂(第3版).

・グラクソ・スミスクライン株式会社.
「パキシル錠5mg・10mg・20mg」販売中止のご案内.
2024.

・National Institute for Health and Care Excellence.
Depression in adults: treatment and management.
NICE Guideline NG222.

・Aldosary F, Norris S, Tremblay P, et al.
Differential Potency of Venlafaxine, Paroxetine, and Atomoxetine
to Inhibit Serotonin and Norepinephrine Reuptake
in Patients With Major Depressive Disorder.
Int J Neuropsychopharmacol.
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・Golden RN, Nemeroff CB, McSorley P, Pitts CD, Dube EM.
Efficacy and tolerability of controlled-release and immediate-release
paroxetine in the treatment of depression.
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2002;63(7):577-584.

・Higuchi T, Hong JP, Jung HY, et al.
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a randomized, double-blind, placebo-controlled study
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・Petimar J, Young JG, Yu H, et al.
Medication-Induced Weight Change Across Common Antidepressant Treatments:
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Compared With Placebo in Healthy Adults:
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American Geriatrics Society 2023 updated AGS Beers Criteria
for potentially inappropriate medication use in older adults.
J Am Geriatr Soc.
2023;71(7):2052-2081.

・井上猛ほか 編.
『こころの治療薬ハンドブック 第16版』.
星和書店; 2026.

・樋口輝彦ほか 編.
『今日の精神疾患治療指針 第2版』.
医学書院; 2016.

・姫井昭男.
『精神科の薬がわかる本 第5版』.
医学書院; 2024.

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