精神科の治療について

rTMS(反復経頭蓋磁気刺激療法)|うつ病への効果・作用機序・治療方法

  • 更新日:2026.10.02
  • 公開日:2026.10.02

はじめに

rTMS(repetitive Transcranial Magnetic Stimulation:反復経頭蓋磁気刺激療法)は、
頭皮の上に置いたコイルから磁場を発生させ、
脳内に電流を誘導することで神経活動に働きかける
非侵襲的脳刺激療法です。

精神科領域では、
特に大うつ病性障害(うつ病)に対して
多くの臨床研究が行われています。
抗うつ薬で十分な改善が得られない場合に、
薬物療法とは異なる作用機序を利用できることが大きな特徴です。

全身麻酔や手術を通常必要とせず、
意識を保ったまま治療を受けることができます。
一方で、1回の刺激だけで効果を判断する治療ではなく、
通常は複数回の刺激を反復して行います。

当院では現在rTMS治療を実施していません


ライトメンタルクリニックでは、
2026年10月現在、rTMS治療は未導入です。

本ページは、
rTMSを検討している方が、
作用機序、効果、治療方法、副作用、
他の脳刺激療法との違いを理解するための
情報提供を目的としています。

当院では現在、
非侵襲的脳刺激療法として
tDCS(経頭蓋直流電気刺激)を実施しています。

rTMSのポイント

  • 磁場によって大脳皮質に電流を誘導する非侵襲的脳刺激療法
  • うつ病では主に背外側前頭前野(DLPFC)を刺激する
  • 抗うつ薬とは異なる仕組みで治療できる
  • 治療抵抗性うつ病に対するエビデンスが比較的豊富
  • 全身麻酔を通常必要としない
  • 高頻度rTMS、低頻度rTMS、iTBSなど複数の刺激方法がある
  • 刺激方法によって約40秒〜40分近くまで所要時間が異なる
  • 主な副作用は頭皮痛、刺激痛、頭痛、顔面の不快感など
  • 非常にまれではあるものの、けいれん発作のリスクがある

rTMSの基本情報

治療名

rTMS(反復経頭蓋磁気刺激療法)
英語名

repetitive Transcranial Magnetic Stimulation
治療分類

非侵襲的脳刺激療法/ニューロモデュレーション
主な対象

大うつ病性障害
代表的刺激部位

背外側前頭前野(DLPFC)
麻酔

通常不要
一般的な治療頻度

週5回程度を反復する方法が一般的
代表的な刺激方法

高頻度rTMS/低頻度rTMS/iTBSなど
当院での実施

現在未導入
当院で実施中の脳刺激療法

tDCS(経頭蓋直流電気刺激)

rTMSとは

rTMSでは、
頭皮の上に専用の電磁コイルを配置し、
コイルに瞬間的な電流を流します。

すると、
ファラデーの電磁誘導の原理によって
時間的に変化する磁場が生じます。

磁場は頭皮や頭蓋骨を通過し、
大脳皮質に誘導電流を発生させます。
十分な刺激強度では神経細胞の軸索に脱分極を起こし、
神経活動を直接誘発できます。

この点は、
神経細胞を直接発火させるほどの刺激を通常行わず、
主として膜電位や皮質興奮性を緩やかに変化させる

tDCS(経頭蓋直流電気刺激)

とは異なります。

刺激するのは「脳全体」ではありません

rTMSでは、
コイルの形状や位置によって、
比較的限局した大脳皮質を刺激できます。

一方、
臨床効果はコイル直下だけに生じるわけではありません。
刺激された領域と機能的につながる
神経ネットワークを介して、
より広い脳機能へ影響すると考えられています。

rTMSの作用機序

rTMS反復経頭蓋磁気刺激療法の作用機序。磁場によって大脳皮質に誘導電流を生じさせ、左DLPFCの神経活動と前頭前野・辺縁系ネットワークを調整する
rTMSでは磁場によって大脳皮質に電流を誘導し、
DLPFCの神経活動と、
そこにつながる神経ネットワークへ働きかけます。

① 磁場から大脳皮質に電流を誘導する

rTMSでは、
電磁コイルによる時間変動磁場が
頭皮・頭蓋骨を通過し、
大脳皮質内に渦電流を発生させます。

この誘導電流によって神経細胞の軸索が刺激され、
刺激強度が発火閾値を超えると
神経活動を直接誘発できます。

② DLPFCの神経活動を調整する

うつ病では、
背外側前頭前野(DLPFC)を含む
前頭前野・辺縁系ネットワークの機能変化が
病態に関係すると考えられています。

代表的なrTMSでは、
左DLPFCに高頻度刺激を行い、
前頭前野の神経活動を調整します。

一方、
右DLPFCへの低頻度刺激も
うつ病に対して研究されており、
有効性を支持する臨床研究があります。

③ 神経可塑性に影響する

rTMSを繰り返すと、
刺激終了後にも神経活動の変化が持続することがあります。

NMDA受容体を含むシナプス機構や、
LTP・LTD様の神経可塑性が
関与すると考えられています。

古典的には、
高頻度刺激は皮質興奮性を高める方向、
低頻度刺激は皮質興奮性を低下させる方向に
作用すると説明されます。

ただし実際のヒト脳では個人差が大きく、
刺激頻度だけで反応方向が完全に決まるわけではありません。

④ 神経ネットワークへ作用が広がる

rTMSによる作用は、
刺激したDLPFCだけに限定されません。

DLPFCと機能的につながる
前部帯状回、
内側前頭前野、
辺縁系などを含むネットワークへ
影響すると考えられています。

近年では、
DLPFCと膝下部前帯状皮質などとの
機能的結合を利用して、
刺激位置を個別化する研究も進んでいます。

⑤ BDNFなどの分子機構も研究されている

BDNF(脳由来神経栄養因子)などの
神経可塑性関連分子が、
rTMSの作用へ関与する可能性も研究されています。

ただし、

「rTMSでBDNFが増えるからうつ病が改善する」

と単一の分子だけで
臨床効果を説明できる段階ではありません。

「脳の回路を書き換える」と断定できる治療ではありません

神経可塑性はrTMSを理解するうえで重要な概念ですが、
特定の思考や人格を
脳へ直接「書き込む」治療ではありません。

rTMSは、
うつ病に関連する神経活動や
神経ネットワークの状態を調整し、
症状改善を目指す治療と考えるのが適切です。

刺激方法によって治療時間が大きく異なります

「rTMSは1回何分ですか?」
という質問には、
一つの時間だけで答えることはできません。

刺激頻度、
総パルス数、
刺激と休止の間隔、
TBSを使用するかどうかによって、
所要時間は大きく異なります。


従来型10Hz


約37.5分


3,000 pulseの代表的プロトコル

標準iTBS


約3分


600 pulseの代表的プロトコル

cTBS


約40秒


600 pulseの代表的研究プロトコル
刺激方法 代表的条件 刺激時間の目安 特徴
高頻度10Hz rTMS 左DLPFC
3,000 pulse
約37.5分 うつ病で長く使用されてきた
代表的な高頻度刺激
低頻度1Hz rTMS 右DLPFC
900〜1,800 pulseなど
約15〜30分 パルス数によって
所要時間が変化する
iTBS 主に左DLPFC
600 pulse
約3分 従来型10Hz rTMSより
大幅に短時間
cTBS 600 pulse 約40秒 抑制方向の可塑性を狙う研究が多い。
うつ病の標準的急性期治療とは異なる
accelerated iTBS 1日に複数セッション 1回は短時間だが
1日の治療全体は数時間
総治療期間を短縮することを
目的とした新しい治療戦略

「刺激時間」と「医療機関での滞在時間」は異なります

iTBSでは、
実際の磁気刺激そのものは
約3分で終了する代表的プロトコルがあります。

しかし初回には、
診察、
運動閾値の測定、
刺激位置の設定などが必要です。

2回目以降も、
コイル位置の確認や治療前後の状態確認などがあるため、
実際の滞在時間は刺激時間より長くなります。

iTBS|約3分で行えるrTMS


iTBS(intermittent Theta Burst Stimulation:
間欠的シータバースト刺激)

は、
rTMSの一種です。

3連発の高頻度刺激を
シータ波に近い時間パターンで繰り返し、
短時間に神経可塑性へ働きかけることを狙います。

414人の治療抵抗性うつ病患者を対象とした
THREE-D試験では、
約3分のiTBSは、
約37.5分の10Hz高頻度rTMSに対して
抗うつ効果で非劣性でした。

短時間だから「弱い治療」という意味ではありません

iTBSは、
単に従来型rTMSの刺激時間を短くしたものではなく、
刺激パターンそのものが異なります。

一方、
使用できる刺激条件や
保険診療上の取り扱いは、
医療機器の承認内容によって異なります。

短期集中型rTMS・accelerated iTBS

近年研究が進んでいるのが、
1日に複数回のiTBSを行う
accelerated iTBSです。

通常は数週間かけて行う治療を、
より短い日数へ集約することを目的としています。

2026年に公表された
15件のランダム化偽刺激対照試験、
704人を対象としたメタ解析では、
accelerated iTBSは
偽刺激より抑うつ症状を有意に改善しました。


抑うつ症状


SMD 0.69

治療反応


RR 1.99


NNT 約5

寛解


RR 1.77


NNT 約10

一方、
accelerated iTBSには、
1日のセッション数、
1回あたりのパルス数、
セッション間隔、
刺激強度、
刺激位置の決め方などが異なる
複数のプロトコルがあります。

「数日でうつ病が治る治療」と考えるのは適切ではありません

accelerated iTBSは有望な治療法ですが、
研究ごとに刺激条件がかなり異なります。

現時点では、

治療期間を短縮できる可能性がある
新しいrTMSプロトコル

と理解するのが適切です。

うつ病に対するrTMSの効果

rTMSは、
精神科領域では特に

大うつ病性障害

に対してエビデンスが蓄積しています。

日本精神神経学会の適正使用指針では、
抗うつ薬で十分な改善が得られない患者さんについて、
実臨床データなどをもとに

約40〜50%が治療反応を示し、
約15〜25%が寛解に至る

と説明されています。


治療反応


約40〜50%


症状が大きく改善

寛解


約15〜25%


症状がごく軽い水準まで改善

6〜12か月の再発


約10〜30%


rTMS反応者の推定

「治療反応」は一般に、
症状評価尺度が治療前から
50%以上改善した状態を指します。

「寛解」は、
症状がほとんどみられない水準まで
改善した状態を指します。

rTMSは「必ず効く治療」ではありません

rTMSは治療抵抗性うつ病に対して
有効性が確立してきた治療ですが、
全員に十分な改善が得られるわけではありません。

一般に治療抵抗性が強いほど、
rTMSを含めた次の治療にも
反応しにくくなる傾向があります。

2026年の最新メタ解析ではどう評価されているか

2026年に公表された
141件のランダム化試験、
10,587人を含むネットワークメタ解析では、
複数のrTMSプロトコルが
偽刺激より高い治療反応率を示しました。

刺激法 偽刺激に対する治療反応
高頻度左DLPFC OR 3.34
低頻度右DLPFC OR 2.90
両側rTMS OR 3.93
TBS OR 4.47
accelerated rTMS OR 4.14

ただし、
active treatment同士の比較については
エビデンスの確実性が低いものも多く、
数値だけを見て
「特定の刺激方法が最も優れている」
と判断することはできません。

「どの打ち方が一番効くか」はまだ完全には決まっていません

TBSなどが良好な成績を示す解析もありますが、
現時点で、
すべての患者さんに対して
特定の刺激法が明確に最も優れているとは断定できません。

使用する医療機器、
病状、
過去の治療反応、
安全性、
通院可能性などを含めて
治療法を選択する必要があります。

日本で保険診療のrTMSを検討する場合

日本では、
rTMSは誰でも希望すれば
保険診療で受けられる治療ではありません。

日本精神神経学会の適正使用指針では、
原則として

18歳以上で、
中等症以上のうつ病エピソードがあり、
十分な抗うつ薬治療によっても
期待された改善が得られなかった方

などが対象となります。

抗うつ薬の副作用が強く、
十分な薬物療法を継続できない場合も
rTMSを検討する理由となり得ます。

保険診療では医療機関側にも要件があります

保険診療としてrTMSを実施するには、
使用する医療機器だけでなく、
施設基準、
医師の研修、
医療連携体制などにも
一定の要件があります。

自由診療で行われるrTMSと、
日本の公的医療保険におけるrTMSは
区別して理解する必要があります。

rTMSよりECTを優先することがある状態

rTMSよりも、
より迅速で強力な治療を必要とする状態があります。

ECTなどを優先して検討する代表例

  • 切迫した希死念慮がある
  • 幻覚・妄想など精神病症状を伴う重症うつ病
  • 緊張病症状がある
  • 食事や水分摂取が難しい
  • 身体的・精神医学的に速やかな改善が必要

このような場合には、
rTMSより
電気けいれん療法(ECT)を
優先して検討することがあります。

双極症のうつ状態にも使えるのか


双極症(双極性障害)

のうつ状態に対する
rTMSやTBSの研究も行われています。

複数の臨床試験やメタ解析では、
双極性うつ病に対する
抗うつ効果が示唆されています。

一方、
日本における通常の保険診療のrTMS適応は、
大うつ病性障害と同じではありません。

また双極症では、
躁状態・軽躁状態への変化にも
注意しながら治療する必要があります。

うつ病以外で研究されているrTMS

rTMSは、
うつ病以外の精神・神経疾患でも研究されています。

強迫症(OCD)


強迫症(OCD)

では、
内側前頭前野や前部帯状回を含む神経回路を
標的とするdeep TMSが研究されています。

米国では、
特定のdeep TMS機器が
成人OCDの治療についてFDAの認可を受けています。

慢性疼痛

一次運動野(M1)へのrTMSによる
慢性神経障害性疼痛の治療も研究されています。

脳卒中・リハビリテーション

脳卒中後の運動麻痺や失語などについても、
神経可塑性を利用した
リハビリテーションとの併用が研究されています。


研究が行われていることと、
日本で標準治療または保険診療として
認められていることは同じではありません。

うつ病以外へのrTMSは、
疾患、
使用機器、
刺激方法、
国内承認状況を
個別に確認する必要があります。

刺激位置と刺激強度はどのように決めるのか

① 運動野のホットスポットを確認する

まず運動野を刺激し、
手指などに筋反応が
最も安定して生じる位置を確認します。

この位置を
motor hotspot
と呼びます。

② 運動閾値を測定する

次に、
神経反応を起こすために必要な
最小限の刺激強度を測定します。

これを
運動閾値(Motor Threshold:MT)
と呼びます。

rTMSの刺激強度は、
この運動閾値を基準として
患者さんごとに設定します。

③ DLPFCの刺激位置を決定する

うつ病では、
運動野ではなくDLPFCが
治療標的となります。

そのため、
運動閾値測定とは別に
前頭前野の刺激位置を決定します。

頭部計測法、
Beam F3法、
MRIを利用したニューロナビゲーションなど、
複数の方法があります。

運動閾値測定とDLPFCの位置決めは別の工程です

運動野で筋反応を確認する主な目的は、
患者さんごとの刺激強度を設定することです。

その後、
うつ病治療の標的となるDLPFCを
別の手順で決定します。

一般的な治療スケジュール

rTMSは、
1回だけで完結する治療ではありません。

日本の代表的な承認プロトコルの一つでは、
左DLPFCに対して

安静時運動閾値の120%、
10Hz、
1回3,000パルス

の刺激を行います。

急性期には、
週5回程度の頻度で
数週間にわたり治療を行う方法が一般的です。

実際の刺激条件、
総治療回数、
治療期間は、
使用する医療機器の承認内容・添付文書に従います。

項目 一般的な目安
治療頻度 週5回程度
治療期間 数週間
治療回数 15〜30回程度が用いられることが多い
全身麻酔 通常不要
治療形態 通常は外来

何回くらいで効果が分かりますか?

rTMSは、
最初の数回だけで
効果の有無を判断する治療ではありません。

治療を重ねながら徐々に改善する方も多く、
臨床研究でも数週間にわたって
症状変化を評価します。

早期に改善する方もいれば、
20回前後まで治療を重ねてから
改善が明確になる方もいます。

「10回受ければ効く」という明確な境界はありません

10回目や2週間目は
一つの経過観察時点になりますが、
そこまで変化がないだけで
一律に無効とは判断できません。

一方、
症状を評価せず漫然と
治療回数だけを増やすことも適切ではありません。

治療効果はどのように評価するのか

rTMSの効果は、
「何となく良くなった」という感覚だけでなく、
症状と生活機能の両方から評価します。

抑うつ気分、
興味・喜び、
意欲、
疲労、
集中力、
睡眠、
食欲、
仕事や家事への影響などを確認します。

必要に応じて、
PHQ-9、
HAM-D、
MADRSなどの評価尺度を用いて
治療前後の変化を確認します。

治療終了後も効果は続きますか?

rTMSによって改善しても、
うつ病そのものの
再発可能性がなくなるわけではありません。

日本精神神経学会の適正使用指針では、
rTMSに反応した方の
6〜12か月における再発率は
10〜30%程度と推定されています。

治療終了後も、
薬物療法、
心理療法、
睡眠・生活リズムの調整などを含めた
再発予防が重要です。

維持rTMS

急性期rTMSによって改善した後、
刺激頻度を減らして継続する
maintenance rTMSも研究されています。

維持rTMSによる
症状改善・維持を支持する研究がありますが、
最適な刺激頻度、
維持期間、
固定スケジュールと
症状再燃時のrescue刺激のどちらがよいかなどは
十分に確立していません。

急性期治療と再発予防は分けて考えます

急性期に症状を改善することと、
改善した状態を長期間維持することは
別の治療課題です。

rTMSだけでなく、
薬物療法や心理療法を含めた
再発予防計画を考える必要があります。

rTMSとtDCSの違い|効果・治療時間・通院負担を比較

rTMSと

tDCS(経頭蓋直流電気刺激)

は、
どちらも頭蓋骨を開けずに
脳機能へ働きかける
非侵襲的脳刺激療法です。

しかし、
刺激の仕組み、
エビデンスの成熟度、
治療時間、
通院負担、
必要な設備は大きく異なります。

比較項目 rTMS tDCS
刺激方法 磁場によって
大脳皮質に電流を誘導
頭皮の電極から
微弱な直流電流を流す
神経への作用 十分な強度では
神経活動を直接誘発できる
主に膜電位・皮質興奮性を
緩やかに調整
局所選択性 比較的高い rTMSより広い範囲へ
電場が形成されやすい
1回の刺激時間 約3〜40分程度が代表的
刺激法により異なる
約20〜30分程度が
多くの研究で用いられる
うつ病へのエビデンス より確立している 有効性を支持する研究はあるが
rTMSより限定的
医療機関への通院 急性期には
頻回通院が一般的
医療者管理下で
自宅実施へ応用できる
機器・設備 大型装置、
専用コイル、
治療スペースが必要
比較的小型の機器で
実施可能
主な副作用 頭皮痛、
刺激痛、
頭痛など
ピリピリ感、
かゆみ、
発赤など
当院 現在未導入 現在実施中

効果の確立度ではrTMS、治療負担ではtDCSに異なる利点があります

うつ病に対する臨床研究の蓄積、
効果の再現性、
ガイドラインや実臨床での位置づけでは、
現時点ではrTMSの方が確立しています。

一方、
tDCSには、
機器が小型で、
医師による適応判断と使用方法の説明を受けたうえで、
主として自宅で治療へ取り組めるという
rTMSとは異なる利点があります。

tDCSを単純に
「弱いrTMS」や「安いrTMS」と考えるより、

効果の確立度と治療負担のバランスが異なる脳刺激療法

と考える方が適切です。

rTMSとECTの違い

比較項目 rTMS ECT
刺激方法 磁気刺激による誘導電流 電気刺激によって治療的けいれんを誘発
全身麻酔 通常不要 必要
けいれん誘発 治療目的では行わない 治療目的で誘発する
抗うつ効果 有効だが、
一般にECTには及ばない
重症うつ病にも
高い有効性
記憶への影響 比較的小さい 一過性の記憶障害などが生じることがある
緊急性の高い重症例 第一選択にならないことがある 重要な治療選択肢

rTMSの副作用

rTMSは、
全身麻酔を必要としない
比較的低侵襲な治療ですが、
副作用がないわけではありません。

副作用 頻度・特徴
頭皮痛・刺激痛 30%前後
顔面の不快感 30%前後
頸部痛・肩こり 10%前後
頭痛 10%未満
けいれん発作 非常にまれ
躁状態・軽躁状態 まれ
聴覚への影響 刺激音が大きいため、
適切な聴覚保護を行う

けいれん発作

rTMSで最も注意する
重篤な副作用の一つが
けいれん発作です。

日本精神神経学会の適正使用指針では、
発生頻度は全体で

1セッションあたり約0.003%、
患者1人あたり約0.07%

とされています。

頻度は非常に低いものの、
けいれん既往、
頭蓋内病変、
使用薬、
睡眠不足、
飲酒などのリスクを
治療前に確認する必要があります。

認知機能への影響

通常のrTMSでは、
ECTで問題となることがあるような
明確な記憶障害は一般的ではありません。

rTMSを受けられない・慎重な評価が必要な状態

絶対禁忌となる代表例

  • 刺激部位に近接する磁性体金属
  • 人工内耳
  • 磁性体の脳動脈瘤クリップなど
  • 深部脳刺激装置
  • 迷走神経刺激装置などの刺激装置
  • 心臓ペースメーカー

実際には、
使用するrTMS装置の添付文書も確認して
判断する必要があります。

慎重な評価が必要となる代表例

  • てんかん・けいれん発作の既往
  • けいれんリスクを高める可能性のある頭蓋内病変
  • けいれん閾値へ影響する可能性のある薬剤を使用している
  • 頭蓋内にチタン製品がある
  • 磁力で固定する義歯・インプラントがある
  • アルコールや薬物の乱用・離脱状態
  • 妊娠中
  • 重篤な身体疾患がある

一般的な非磁性の歯科インプラントや義歯があるだけで、
一律にrTMSが禁忌となるわけではありません。

体内金属や医療機器の
材質・位置が分かる資料がある場合は、
治療前に実施医療機関へ提示してください。

薬を飲みながらrTMSを受けられますか?

多くの場合、
rTMSを行うために
抗うつ薬を中止する必要はありません。

実際の臨床でも、
薬物療法を継続しながら
rTMSを行うことがあります。

一方、
一部の薬剤は
けいれん閾値に影響する可能性があるため、
現在使用している薬は
治療前にすべて申告する必要があります。

心理療法とrTMS

rTMSと

認知行動療法(CBT)

などの心理療法を
組み合わせることも可能です。

rTMSによって生じる神経可塑性と、
認知・行動課題を組み合わせることで
相乗効果を得られる可能性も研究されています。

ただし、
特定の心理療法をrTMS直後に行えば
必ず治療効果が高まると
確立しているわけではありません。

一般的なrTMS治療の流れ

横にスワイプして治療の流れをご覧いただけます。

STEP
01

診察・診断

現在の症状、
うつ病の重症度、
双極症など他の疾患の可能性、
これまでの治療経過を確認します。

STEP
02

適応・安全性確認

けいれん歴、
頭部手術歴、
体内金属・医療機器、
服薬、
飲酒、
睡眠状態などを確認します。

STEP
03

MT・刺激位置設定

運動閾値を測定し、
使用する医療機器の方法に従って
DLPFCの刺激位置と刺激強度を設定します。

STEP
04

反復治療・評価

複数回の刺激を行いながら、
抑うつ症状、
日常生活機能、
副作用を定期的に評価します。

通院を継続できるかも重要です

標準的なrTMSでは、
平日に頻回の通院が必要になるため、
仕事、
学校、
育児、
遠距離通院などが
治療継続の障壁になることがあります。

治療開始前に、
必要な治療回数、
1回の所要時間、
通院頻度、
生活への影響を確認し、
現実的に継続できるかを検討します。

専門医の臨床的見解


以下は研究結果そのものではなく、
執筆者の精神科臨床における個人的見解です。

rTMSの大きな価値は、
単に「薬より強い治療」であることではなく、

薬物療法とは異なる作用機序を利用できること

にあると考えています。

十分量・十分期間の抗うつ薬を使用しても
改善が不十分な場合、
同じ方向性の薬剤を追加し続けるだけではなく、
rTMSのような異なる作用機序を持つ治療を
選択肢に入れる価値があります。

また、
抗うつ薬による眠気、
消化器症状、
性機能障害、
体重増加などによって
十分な薬物療法を継続しにくい方でも、
rTMSを検討する意義があります。

一方で、
「rTMSを受ければ薬をやめられる」
「数日で治る」
「刺激が強いほど効く」
といった理解は適切ではありません。

診断、
うつ病の重症度、
治療抵抗性、
希死念慮、
双極性の可能性、
身体疾患、
通院可能性などを評価し、
薬物療法、
心理療法、
rTMS、
ECTなどを
適切に使い分ける必要があります。

rTMSへの頻回通院が現実的でない場合には、
効果の確立度はrTMSより低いものの、
医療者の管理のもとで自宅治療へ応用できる
tDCSを検討するという考え方もあります。

よくある質問

Q. ライトメンタルクリニックでrTMSを受けられますか?

2026年10月現在、
当院ではrTMS治療を導入していません。

当院で実施している非侵襲的脳刺激療法としては、
tDCS(経頭蓋直流電気刺激)があります。

Q. rTMSは痛いですか?

刺激中に、
頭皮を繰り返し叩かれるような感覚や、
額・顔面の筋肉が動く感覚を
生じることがあります。
痛みには個人差があります。

Q. 麻酔は必要ですか?

通常のrTMSでは、
全身麻酔を必要としません。
治療中も意識を保ったまま刺激を受けます。

Q. 1回の治療は何分くらいですか?

刺激方法によって大きく異なります。
代表的な10Hz高頻度rTMSでは約37.5分、
標準的なiTBSでは約3分です。

右DLPFCへの1Hz刺激では、
900 pulseなら約15分、
1,800 pulseなら約30分となります。

Q. iTBSは約3分でも従来型と同じように効くのですか?

THREE-D試験では、
約3分のiTBSは、
約37.5分の10Hz高頻度rTMSに対して
抗うつ効果で非劣性でした。

ただし、
すべてのrTMSを
単純に3分へ短縮できるわけではありません。

Q. 何回くらいで効果が出ますか?

個人差があります。
数回だけで効果を判断する治療ではなく、
通常は数週間にわたり
治療を重ねながら評価します。

Q. 10回受けて変化がなければ効かないのでしょうか?

必ずしもそうではありません。
10回時点での改善は参考になりますが、
それだけで一律に無効とは判断できません。

Q. 薬を飲みながら受けられますか?

多くの場合、
抗うつ薬などを継続しながら
rTMSを受けることができます。

Q. rTMSを受ければ薬をやめられますか?

rTMSによって改善したからといって、
必ず抗うつ薬を中止できるわけではありません。

再発歴、
治療反応、
副作用、
維持療法の必要性などを考慮して
個別に判断します。

Q. 記憶力が悪くなることはありますか?

通常のrTMSでは、
ECTでみられることがあるような
明確な記憶障害は一般的ではありません。

Q. けいれんを起こすことはありますか?

非常にまれですが、
けいれん発作の報告があります。

日本精神神経学会の適正使用指針では、
1セッションあたり約0.003%、
患者1人あたり約0.07%とされています。

Q. 歯科インプラントがあると受けられませんか?

一般的な非磁性の歯科インプラントや義歯があるだけで、
一律にrTMSが禁忌になるわけではありません。

Q. 双極症にも使えますか?

双極性うつ病に対する研究はありますが、
大うつ病性障害と同じ適応ではありません。

躁・軽躁への変化も含めて
精神科医による診断と経過観察が必要です。

Q. rTMSとtDCSはどちらが効きますか?

うつ病に対する研究の蓄積、
効果の再現性、
ガイドラインや実臨床での位置づけでは、
現時点ではrTMSの方が確立しています。

一方、
tDCSには機器が小型で、
医療者の管理下で
自宅治療へ応用しやすいという
異なる利点があります。

Q. rTMSは人格を変える治療ですか?

いいえ。
rTMSは人格や意思を変えることを
目的とした治療ではありません。

まとめ

rTMSは、
磁場によって大脳皮質に電流を誘導し、
神経活動や神経ネットワークへ働きかける
非侵襲的脳刺激療法です。

精神科領域では、
特に大うつ病性障害に対して
比較的豊富なエビデンスがあります。

抗うつ薬で十分な改善が得られない場合に、
薬物療法とは異なる作用機序を利用できることが
rTMSの重要な特徴です。

従来型10Hz rTMSだけでなく、
約3分で刺激できるiTBS、
右DLPFCへの低頻度rTMS、
短期集中型accelerated iTBSなど、
複数の刺激方法があります。


当院では2026年10月現在、
rTMS治療は実施していません。

当院では、
非侵襲的脳刺激療法として
tDCSを実施しています。
rTMSとの違いを踏まえて、
tDCSも治療選択肢としてご検討いただけます。

執筆者

執筆者 清水聖童

医療法人社団燈心会 理事長
ライトメンタルクリニック 渋谷本院 院長

清水聖童 (Seido Shimizu)

精神保健指定医 /
日本精神神経学会認定精神科専門医 /
認知症サポート医 /
コンサータ・ビバンセ登録医

引用・参考文献

1. 公益社団法人 日本精神神経学会 精神科医療機器委員会
rTMS適正使用指針作成ワーキンググループ.
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10. 日本うつ病学会 監修.
うつ病診療ガイドライン.

11. 日本精神神経学会 監修.
DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル.
医学書院.

12. 井上猛, 桑原斉, 酒井隆, 鈴木映二,
水上勝義, 宮田久嗣, 諸川由実代, 吉尾隆, 渡邉博幸 編.
こころの治療薬ハンドブック 第16版.
星和書店; 2026.

13. 樋口輝彦, 市川宏伸, 神庭重信, 朝田隆, 中込和幸 編.
今日の精神疾患治療指針 第2版.
医学書院; 2016.

14. 姫井昭男.
精神科の薬がわかる本 第5版.
医学書院; 2024.

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