メンタルヘルスコラム

家族療法とは|家族関係・親子関係・コミュニケーションを整える心理療法

  • 更新日:2026.09.30
  • 公開日:2026.09.30

はじめに

家族の中で困りごとが続いていると、
「本人が変われば解決する」
「親の接し方が悪い」
「相手が理解してくれない」
と、誰か一人に原因を求めたくなることがあります。

しかし家族の問題では、
一人の行動に対して別の家族が反応し、
その反応を受けてさらに行動が変わるという
相互作用の循環が生じていることがあります。

家族療法(Family Therapy/ファミリー・セラピー)は、
誰か一人を「問題のある人」として扱うのではなく、
家族のコミュニケーション、距離の取り方、役割、
繰り返される関係のパターンなどに目を向けながら、
より負担の少ない関わり方を一緒に考えていく心理療法です。

当院では、

心理カウンセリング

の一つとして、
親子関係や家族関係についてのご相談にも対応しています。

家族療法の大切な考え方
「誰が悪いのか」を決めるのではなく、
「家族の間で何が繰り返されているのか」を整理し、
変えられる部分から少しずつ変化をつくっていきます。

家族療法とは

家族療法では、
家族を複数の人が互いに影響し合う
一つのシステムとして捉えます。

例えば、
子どものことを心配した親が何度も確認することで、
子どもが「監視されている」と感じて話さなくなり、
その様子を見た親がさらに不安になって声をかける、
という循環が生じることがあります。

この場合、
「親が干渉しすぎている」
「子どもが反抗している」
とどちらか一方だけを問題にするよりも、
お互いの反応がどのようにつながっているのか
を整理することで、
変化の糸口が見つかることがあります。

治療法
家族療法
英語
Family Therapy
主な焦点

家族関係・相互作用・コミュニケーション
参加者

本人・家族の一部・複数の家族など
治療目標

悪循環を整理し、より柔軟な関係をつくる

家族療法では「原因」よりも「循環」に注目します

一般的には、
「Aが原因となってBが起きる」
という一方向の因果関係で問題を考えることがあります。

家族療法ではそれに加えて、

Aの行動がBに影響し、Bの反応が再びAの行動に影響する

という円環的な相互作用にも注目します。

家族療法により家族内のコミュニケーションの悪循環を整理し、より協力的な関係につなげていく仕組み
家族療法では、誰か一人だけを変えようとするのではなく、
家族内で繰り返される相互作用に働きかけます。

ただし、
症状や精神疾患が
「家族によって作られている」
という意味ではありません。

精神疾患には、
生物学的要因、心理的要因、生活環境など、
さまざまな要素が関係します。

家族療法ではその中でも、

現在の家族の関わり方の中に、
少し変えられる部分がないか

を検討します。

家族療法が向いている相談

親子関係の悩み

会話するとすぐに衝突する、
子どもとの距離の取り方が分からない、
親の心配が強くなりすぎてしまう場合などです。

家族内のコミュニケーション

話し合いが成立しない、
同じ言い争いを繰り返す、
気持ちを伝えるほど関係が悪くなる場合などを扱います。

不登校・ひきこもり

本人への働きかけだけでなく、
家族がどの程度声をかけ、
どのように見守るかを整理することがあります。

精神疾患を抱える家族への支援

病気への理解、
本人との接し方、
再発時の対応、
家族自身の負担などについて整理します。

依存・嗜癖に関連する問題

本人を支えたい気持ちから行っている対応が、
結果として問題行動を続けやすくしていないかなどを
検討することがあります。

家族の役割が変化したとき

結婚、出産、子どもの自立、
離婚、再婚、介護などをきっかけに、
家族内の役割を再調整する必要が生じることがあります。

家族療法の主な考え方

家族療法には一つだけの方法があるわけではありません。
複数の理論や技法があり、
実際の臨床では相談内容に応じて使い分けます。

構造的家族療法

サルバドール・ミニューチンらによって発展した考え方で、
家族内の
役割、階層、境界
に注目します。

例えば、
親子の距離が近すぎて本人自身が判断しにくくなっている場合や、
逆に家族同士の距離が離れすぎて助けを求めにくい場合など、
家族の距離や役割を整理します。

ボーエンの多世代家族療法

マレー・ボーエンの理論では、
家族の感情的なつながりや、
世代をまたいで繰り返される関係のパターンに注目します。

特徴的な概念の一つが
自己分化です。

家族とのつながりを保ちながらも、
周囲の感情に過度に巻き込まれず、
自分自身の考えや気持ちを保つことを重視します。

自分自身の感情や、
過去から繰り返している対人関係のパターンを
より深く扱う場合には、

力動的精神療法

が適することもあります。

システム論的アプローチ

「なぜこの人はこうなったのか」
と一方向の原因を探すだけではなく、

現在のやり取りがどのような循環を作っているのか

に注目します。

例えば、
「お母さまが心配して声をかけたとき、
お子さんはどのような反応をしますか?」
「その様子を見ると、お父さまはどうしますか?」
といった質問を通じて、
家族間の反応を順番に整理していきます。

家族療法で用いられる主な方法

01

円環的質問

一人の考えだけでなく、
「Aさんの反応をBさんはどう感じるか」
といった形で関係の連鎖を整理します。

02

リフレーミング

行動を単純に「悪い行動」と決めつけず、
その背景や別の意味から捉え直します。

03

コミュニケーション調整

聞き方、伝え方、
話し合うタイミングなどを整理し、
より伝わりやすい方法を試します。

04

役割・境界の調整

誰が何を担うのか、
どこまで本人に任せるのかなど、
家族内の距離や役割を整理します。

家族の関係と、本人の考え・行動の両方を見る

家族の関係だけに焦点を当てればよいとは限りません。

例えば、
家族から強く問いかけられたときに
「誰も自分のことを理解してくれない」と考え、
部屋に閉じこもるというパターンがある場合には、
家族のコミュニケーションと、
本人の認知・感情・行動の両方を見ることがあります。


家族とのやり取り


→


考え・受け取り方


→


感情・行動


→


家族の反応

このような場合には、
家族療法と

認知行動療法(CBT)

の考え方を組み合わせることがあります。

また、
現在の重要な対人関係と気分症状との関連を扱う場合には、

対人関係療法(IPT)

が適することもあります。

家族療法の流れ

家族療法では、
最初から「家族の誰かを変える」ことを目指すのではなく、
現在何が起きているのかを整理し、
実行可能な小さな変化を試しながら進めていきます。

家族療法で家族それぞれの困りごとを整理する場面



STEP


01

困りごとを整理する

まず、
誰が何に困っているのかを確認します。
家族それぞれで問題の見え方が違うことも珍しくありません。
一人の説明だけを「正解」とせず、
それぞれの立場から現在の状況を整理します。

家族療法で家族同士のコミュニケーションのパターンを確認する場面



STEP


02

繰り返される関係を整理する

何かが起きたとき、
誰がどのように反応し、
その反応が次に何を起こしているのかを確認します。
悪循環が見えてくると、
どこから変えるとよいかを考えやすくなります。

家族療法で家族の相互作用の循環を整理する場面



STEP


03

違う関わり方を試す

声のかけ方、聞き方、
距離の取り方、役割分担など、
現実的に変えられる部分を一つずつ検討します。
家庭で実行できる小さな変化から試します。

家族療法で新しい関わり方を家庭生活に定着させていく場面



STEP


04

変化を家庭に定着させる

実際に家庭で試した結果を振り返り、
うまくいった方法を増やしていきます。
状況が変わったときにも、
家族自身で関係を調整できることを目指します。

家族全員が参加する必要はありません

「家族療法」という名前から、
家族全員がそろわなければ治療できないと
思われることがあります。

実際には、
家族全員が参加する必要はありません。

本人と両親、
親子二人、
保護者のみ、
配偶者のみなど、
相談内容に応じてさまざまな形で行うことができます。


本人が参加したくない場合

まず困っているご家族から相談を始め、
家庭内でどのような関わり方ができるかを
整理することも可能です。

周囲の対応が変化することで、
本人との関係に変化が生じる場合があります。

ただし、
それだけで必ず本人の症状が改善するという意味ではありません。
必要に応じて本人への直接的な治療も検討します。

精神疾患に対する家族への介入

一部の精神疾患では、
家族への心理教育や家族介入が
治療の一部として重要になります。

統合失調症・精神病性障害

統合失調症では、
本人と密接に関わる家族に対して、
心理教育、問題解決、
コミュニケーション、
危機への対応などを含む
構造化された家族介入
が行われることがあります。

これは、
「家族が統合失調症を起こした」
という考え方ではありません。

病気への理解を共有し、
本人と家族双方のストレスを減らしながら、
状態の悪化に早く対応できる環境を整えることが目的です。

摂食障害

若年者の神経性やせ症や神経性過食症では、
疾患に特化した家族療法が
治療選択肢となることがあります。

特に若年者では、
家族を病気の原因として責めるのではなく、

回復を支える治療資源として家族に参加してもらう

という考え方が重要です。


食行動では「体重だけ」に注目しない

過食性障害などでは、
体重だけではなく、
過食、食事制限、
感情と食行動の関係などを含めて評価します。

認知・行動への介入が必要な場合には、
家族療法と

認知行動療法(CBT)

を組み合わせることもあります。

依存症・嗜癖

依存症では、
本人を助けようとして家族が行っている対応が、
結果として問題行動を続けやすくしている場合があります。

家族を責めるのではなく、

どのような支援が回復を助け、
どのような対応が問題を長引かせる可能性があるのか

を整理します。

また、
本人を支える家族自身が疲弊している場合には、
家族自身への

心理カウンセリング

も重要になります。

家族療法を行う前に確認すること

家族療法では、
家族を一緒に面接すればよいとは限りません。

誰と一緒に話すことが安全で、
誰とは個別に話したほうがよいのかを
事前に検討します。


合同面接より安全性を優先する場合

現在進行中のDV、虐待、強い威圧、
支配や監視などが疑われる場合には、
家族を同席させて率直な話を求めることによって、
かえって危険が高まる可能性があります。

このような場合には、
まず個別に状況を確認し、
安全確保を優先したうえで面接形式を検討します。

また、
認知症、発達上の特徴、
強い精神症状などによって
通常の合同面接が難しい場合もあります。

それ自体を一律に
「家族療法ができない条件」
とするのではなく、
面接時間、参加者、説明方法などを調整しながら、
可能な支援方法を検討します。

家族療法と他の心理療法との違い

心理療法 主に見るもの 向いている相談
家族療法 家族全体の関係・相互作用 親子関係、家族内の葛藤、コミュニケーション
カップルセラピー 夫婦・パートナーという二者関係 夫婦関係、パートナー間のすれ違い
ペアレント・トレーニング 子どもの行動と保護者の具体的な対応 発達特性、子育て、行動への対応

対人関係療法(IPT)
現在の重要な対人関係 対人関係と気分症状が関連する場合

認知行動療法(CBT)
考え方・感情・行動 不安、抑うつ、回避、行動パターン

力動的精神療法
感情・過去の経験・対人関係 繰り返す人間関係、自己理解

実際には、
一つの心理療法だけを選択する必要はありません。

家族関係を整理しながら、
個人の認知や行動には

CBT
、
感情や繰り返す対人関係には

力動的精神療法
、
現在の対人関係には

IPT

というように、
相談内容に応じて治療方法を検討します。

家族関係の背景に、
虐待、喪失、事故などの強いトラウマ体験があり、
その記憶自体への治療が必要な場合には、

EMDR

など別の心理療法が適していることもあります。

専門医の臨床的見解

家族療法というと、
「家族に病気の原因を探す治療」
と誤解されることがありますが、
現代の臨床ではそのような使い方は適切ではないと考えています。

実際の精神科診療では、
症状そのものには薬物療法や個人心理療法が必要であっても、

その症状をめぐって家族全体が疲弊している

というケースは少なくありません。

特に、
「本人を何とか動かそうとして家族が働きかける」
→「本人がより抵抗する」
→「家族がさらに強く働きかける」
という循環は、
不登校、ひきこもり、依存症、
慢性の精神疾患などでみられることがあります。

このような場合には、
本人だけを変えようとするよりも、
家族側が一つだけ反応を変える
ことで、
関係全体に変化が生じることがあります。

一方で、
すべての問題を家族関係だけで説明しようとすることも
避けるべきです。

精神疾患の医学的治療、
発達特性、
本人自身の心理的問題、
社会環境などを含めて評価し、
家族療法を治療全体のどこに位置づけるかを考えることが重要です。

家族療法についてよくあるご質問

家族全員が参加する必要がありますか?

必ずしも必要ではありません。
ご本人と一部のご家族だけで行ったり、
ご家族一人から相談を始めたりすることもできます。

本人が来たがらない場合でも相談できますか?

はい。
ご家族だけで、
本人への関わり方や
家庭内でできる対応を整理することもできます。

誰が正しいか判断してもらえますか?

家族療法は、
誰が正しいか、誰が悪いかを
判定することを目的とはしません。

それぞれの立場を確認しながら、
現在の問題を維持している関係や、
変えられる部分を考えていきます。

親だけで子どもの相談をすることはできますか?

可能です。
子ども本人が相談に抵抗している場合には、
まず保護者から状況を伺い、
家庭での対応を整理することがあります。

過去の家族関係を詳しく話す必要がありますか?

必ずしも過去を詳しく掘り下げるわけではありません。
現在の関係や問題に必要な範囲で、
これまでの家族関係や重要な出来事を確認します。

精神科の治療と一緒に受けられますか?

はい。
症状に応じて薬物療法や個人心理療法を行いながら、
家族療法を並行することがあります。

家族の問題なのか、自分自身の問題なのか分かりません

最初から治療法を決める必要はありません。

家族関係そのものを扱うのがよいのか、
個人の

CBT

や

力動的精神療法

などが適しているのか、
現在の困りごとを整理しながら検討できます。

オンラインでも家族療法はできますか?

相談内容や参加人数、
安全性、プライバシーなどを確認したうえで、
オンラインで実施できる場合があります。

複数人で参加する場合には、
周囲に会話を聞かれない環境を確保することも重要です。

当院で家族療法を希望される方へ

当院では、
親子関係、
家族内のコミュニケーション、
家族の精神疾患への対応などについて、

心理カウンセリング

の中でご相談いただけます。

どのような心理療法が適しているか分からない場合には、
現在の悩みや治療目標を確認しながら、
家族療法、
カップルセラピー、
ペアレント・トレーニング、

CBT
、

IPT

などから適切な方法を検討します。

心理療法だけでなく、
心理検査を含めて支援方法を検討したい場合には、

心理検査・カウンセリング

のページもご覧ください。

精神症状が強い場合や、
薬物療法を含めた治療全体について相談したい場合には、
精神科・心療内科の診察と連携して支援します。

まとめ

家族療法は、
家族の誰か一人を
「問題のある人」として変えようとする治療ではありません。

家族の中で繰り返されている
コミュニケーション、
距離の取り方、
役割、
お互いの反応などを整理し、

家族全体としてより柔軟な関係をつくっていく心理療法

です。

家族全員が参加できなくても、
一部のご家族から相談を始めることはできます。

大きく関係を変えようとするのではなく、
一つの声のかけ方、
一つの反応、
一つの距離の取り方を変えることで、
家族全体の悪循環を少しずつ変えていくことを目指します。

執筆者
執筆者プロフィール

ライトメンタルクリニック 渋谷院 院長

清水聖童 (Seido Shimizu)

精神保健指定医 /
日本精神神経学会認定専門医 /
認知症サポート医 /
コンサータ・ビバンセ登録医

引用・参考文献

1. Minuchin S.
Families and Family Therapy.
Harvard University Press; 1974.

2. Bowen M.
Family Therapy in Clinical Practice.
Jason Aronson; 1978.

3. National Institute for Health and Care Excellence.

Psychosis and schizophrenia in adults:
prevention and management.

NICE Guideline CG178.

4. National Institute for Health and Care Excellence.

Eating disorders:
recognition and treatment.

NICE Guideline NG69.

5. Substance Abuse and Mental Health Services Administration.

Substance Use Disorder Treatment and Family Therapy.

Treatment Improvement Protocol Series 39.
SAMHSA; 2020.

6. Goldenberg H, Goldenberg I.
Family Therapy: An Overview.
Cengage Learning.

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