メンタルヘルスコラム

ペアレントトレーニングとは|子どもの行動を理解し、親子の好循環をつくる支援

  • 更新日:2026.09.30
  • 公開日:2026.09.30

はじめに

子どもがなかなか指示を聞いてくれない、何度注意しても同じことを繰り返す、
すぐに癇癪を起こす、宿題や身支度のたびに親子で衝突してしまう――。
このような状況が続くと、子どもだけでなく保護者も疲れ、
「もっと強く言わないと伝わらないのではないか」と叱る回数が増えてしまうことがあります。

ペアレントトレーニング(Parent Training:PT)は、
保護者が子どもの行動を客観的に理解し、
ほめ方、指示の出し方、環境の整え方、困った行動への対応などを
実践的に学ぶ心理社会的支援です。

「親の育て方を直す」「親を治療する」ためのものではありません。
子どもの特性と環境の相互作用を整理し、
親子双方にとってうまくいきやすい関わり方の選択肢を増やすことを目的とします。

ペアレントトレーニングの中心は「叱り方を学ぶこと」ではありません。
子どものできている行動を見つけ、
望ましい行動が起こりやすい環境と関わり方を増やしていく支援です。

ペアレントトレーニングとは

主な対象子どもの行動や親子関係への対応に困っている保護者

基本となる考え方行動療法・応用行動分析(ABA)・社会学習理論

主に学ぶこと行動観察、肯定的注目、具体的な指示、環境調整、結果の調整

活用される場面ADHD、発達特性、反抗的行動、癇癪、生活習慣、親子関係など

診断がなければ利用できない方法ではありません。
子どもの行動への対応に困っている段階から、
保護者支援の一つとして検討できます。

ペアレントトレーニングの作用機序

ペアレントトレーニングでは、
子どもの行動だけを見るのではなく、
行動が起こる前の状況と、その行動の後に起こったことまで含めて考えます。

ペアレントトレーニングの作用機序。子どもの行動を観察し、保護者の対応を調整することで望ましい行動を増やし、親子関係や生活機能の改善につなげる

例えば、
「言うことを聞かない子」と性格で説明するのではなく、
どのような場面で、どの行動が起こり、その後に周囲がどう反応したか
を整理します。

そのうえで、保護者が肯定的な注目、具体的な指示、環境調整などを行うことで、
望ましい行動が起こりやすくなり、
叱責や親子間の衝突が減っていく好循環を目指します。

ABC分析|子どもの行動を仕組みとして理解する

ペアレントトレーニングでよく用いられる考え方の一つが
ABC分析です。

要素 意味 例
A:Antecedent 行動の前に起きたこと 「ゲームを終えて宿題をしよう」と声をかけた
B:Behavior 実際に観察できる行動 「嫌だ」と言ってゲームを続けた
C:Consequence 行動の後に起きたこと 言い合いになり、結果として宿題開始が遅れた

このように整理すると、
「反抗している」と評価するだけでは見えなかった、
ゲームから宿題への切り替えの難しさや、
その後の周囲の反応との関係を検討できます。

行動だけではなく、その前後まで見る。
これがペアレントトレーニングの基本的な視点です。

子どもの行動を3つに分けて考える

すべての行動に同じ対応をするのではなく、
行動の性質によって対応を変えます。

増やしたい行動

挨拶する、着替える、片づける、
声をかけられたら行動を始めるなど。
肯定的な注目を増やします。

減らしたい行動

軽度のぐずり、不適切な言葉、
注目を得るための行動など。
行動の機能を確認しながら対応を調整します。

危険な行動

他者への暴力、自傷、飛び出し、
重大な破壊行動など。
安全確保を最優先に対応します。

「好ましくない行動は無視する」という単純な方法ではありません。
安全性と、その行動がどのような機能を持っているのかを確認して対応を選びます。

ペアレントトレーニングで学ぶ具体的な方法

肯定的な注目を増やす

子どもが困った行動をしたときだけ大人が強く反応していると、
結果として問題行動に多くの注目が集まることがあります。

そこで、
普段からできている行動や、これから増やしたい行動を意識して見つける
ことを練習します。

「偉いね」だけではなく、

「言ったらテレビを消せたね」
「自分でランドセルを置けたね」

のように、何ができたのかを具体的に伝えます。

指示を短く、具体的にする

「早くして」「ちゃんとして」といった抽象的な言葉は、
子どもによっては次に何をすればよいのかわかりにくいことがあります。

抽象的な指示 具体的な指示
早くして まず靴下を履こう
ちゃんと片づけて ブロックをこの箱に入れよう
静かにして 今はこのくらいの声で話そう
宿題しなさい まず算数を1ページ始めよう

特に
ADHD(注意欠如・多動症)
などで注意の切り替えやワーキングメモリに負荷がかかりやすい場合には、
注意をこちらへ向けてから、短く、一度に一つずつ伝える
ことが役立つ場合があります。

環境を調整する

行動の問題を子どもの努力だけで解決しようとせず、
行動しやすい環境を作ります。

  • テレビや動画を止めてから宿題を始める
  • やることを見える形で提示する
  • 課題を小さな単位に分ける
  • 切り替え前に予告する
  • 選択肢を増やしすぎない

計画的に反応を減らす

軽度の行動の中には、
周囲から大きな反応を得ることで維持されているものがあります。
その場合には、
計画的無視(planned ignoring)
と呼ばれる方法を用いることがあります。

計画的無視が適するのは一部の軽度な行動です。
暴力、自傷、飛び出しなどの危険行動には用いません。

また、ただ無視するのではなく、
適切な行動に切り替わった時点で肯定的な注目を再開することが重要です。

トークンエコノミー

目標となる行動ができたときに、
シールやポイントなどを渡し、
一定数たまったところであらかじめ決めた活動や報酬と交換する方法です。

「いい子にする」のではなく、
「朝、自分で着替えを始める」など、
観察できる具体的な行動
を目標にします。

行動が安定してきたら、
外的な報酬だけに依存しないよう、
日常的な肯定的フィードバックへ少しずつ移行します。

制限設定・タイムアウト

状況によっては、
明確なルールを伝え、
行動の結果を一貫させることも必要です。

タイムアウトは行動療法で使用されることがありますが、
罰として子どもを長時間隔離する方法ではありません。
年齢、発達段階、行動の性質、家庭環境を考慮して適応を判断します。

どのような場合に役立ちますか?

  • 何度注意しても同じことを繰り返す
  • 指示を出してもなかなか行動に移れない
  • 癇癪や反抗的な行動への対応に困っている
  • 宿題、着替え、片づけなどで毎日衝突する
  • ADHDや発達特性への家庭での対応を知りたい
  • 叱る回数が増え、親子ともに疲れている
  • 家庭内で対応方法を統一したい

子どもの行動上の困難には、
ADHD、ASDなどの神経発達症だけでなく、
不安、気分の問題、睡眠、学習環境などが関係することもあります。
必要に応じて
疾患・発達特性についての評価
とあわせて検討します。

ADHDとペアレントトレーニング

ADHD(注意欠如・多動症)では、
不注意、多動性、衝動性に加え、
指示された行動を開始しにくい、
途中で別のことに注意が移る、
待つことが難しいといった特徴から、
日常生活で注意される経験が増えやすいことがあります。

行動的ペアレントトレーニングは、
ADHDに対する代表的な心理社会的介入の一つです。

治療上の位置づけは年齢によって異なります。
幼児期では保護者を介した行動療法が特に重要です。
学童期以降では、症状や生活への支障に応じて、
薬物療法、学校での支援、環境調整などを組み合わせます。

ペアレントトレーニングは、
ADHDそのものを「なくす」ための治療ではありません。
家庭での困りごと、適応行動、親子間のやり取りを改善する
ことが主な目的です。

反抗的な行動・反抗挑発症の場合

子どもの強い怒り、口論、反抗、挑発的な行動などが続くと、
親子がお互いに強い反応を返し合うパターンが形成されることがあります。

反抗挑発症(ODD)
などでは、ペアレントトレーニングは代表的な心理社会的治療の一つです。
保護者の対応を一貫させ、
望ましい行動への肯定的な反応を増やしながら、
親子間の衝突を減らしていきます。

ADHDなどの併存症がある場合には、
その評価と治療も重要です。
当院の反抗挑発症ページでも、
ペアレントトレーニングや学校との連携を治療の一部として紹介しています。

ASDなどの発達特性がある場合

ASD(自閉スペクトラム症)などの発達特性がある場合にも、
子どもの行動を具体的に観察し、
環境や大人の関わり方を調整する考え方が役立つことがあります。

ただし、行動の背景に
感覚過敏、コミュニケーションの特徴、
予定変更への苦手さ、強いこだわりなどがある場合には、
単純に行動を減らすだけでは十分ではありません。

なぜその場面が本人にとって難しいのかを整理することが重要です。
ADHDやASDなどの発達特性については、

疾患・特性から探すページ

でもご案内しています。

保護者を責めるための治療ではありません

「ペアレントトレーニング」という名称から、
「親の育て方が悪いと言われているように感じる」
と不安になる方もいます。

しかし、ペアレントトレーニングは
保護者の責任を追及するものではありません。


子どもだけに努力を求めるのではなく、
大人側から変えられる条件を増やしてみる。

そのための具体的な方法を学ぶ支援です。

発達特性への対応が長期間続けば、
保護者自身が疲弊することもあります。
保護者の睡眠、不安、抑うつ、家族内の役割分担なども含め、
必要に応じて保護者自身への支援も検討します。

家庭だけでなく、学校・医療・療育と連携する

子どもの行動は家庭だけで起こるわけではありません。
学校や保育園、療育施設では困り方が異なることもあります。

家庭では難しいのに学校ではできている場合や、
逆に家庭では安定しているのに学校では困難が強い場合には、
環境の違いそのものが重要な情報になります。

当院の
児童・思春期精神科
では、発達の経過や家庭・学校での様子も含めて評価し、
必要に応じて心理検査、心理支援、薬物療法、
ご家族への助言、学校との連携を組み合わせて検討します。

ペアレントトレーニングの流れ

実際の内容は、お子さまの年齢、発達特性、家庭での困りごとに応じて調整します。

保護者から子どもの行動や家庭での困りごとを聞き取る
STEP
01

困っている場面を整理する

家庭で困っている行動、その行動が起こりやすい場面、
これまで試してきた対応などを具体的に確認します。

ABC分析を用いて子どもの行動の前後関係を整理する
STEP
02

行動を観察・分析する

ABC分析などを使い、
行動の前後に何が起こっているのかを整理します。

肯定的な注目や具体的な指示の出し方を学ぶ
STEP
03

関わり方を練習する

ほめ方、指示の出し方、環境調整などを、
実際の家庭場面に合わせて練習します。

家庭で実践した方法を振り返り調整する
STEP
04

実践して調整する

家庭で試した結果を振り返り、
うまくいった点と難しかった点を確認しながら方法を調整します。

大きな目標ではなく、スモールステップで考える

「言うことを聞けるようにする」
「良い子にする」といった大きな目標では、
何が改善したのかを確認しにくくなります。

そこで、次のような
具体的で観察可能な行動に分けます。

  • 朝、声をかけられたらパジャマを脱ぐ
  • 帰宅したらランドセルを決めた場所に置く
  • 宿題を5分間始める
  • 食事中に5分間席に座る

できた行動が安定してきたら、
少しずつ次の目標へ進みます。
うまくいかなかった場合も「失敗」と考えるのではなく、
目標設定や環境、伝え方を再調整します。

子どもの特性を詳しく整理した方がよい場合

ペアレントトレーニングを行う中で、
注意の持続、言語理解、ワーキングメモリ、学習面など、
子どもの認知特性をより詳しく整理した方がよい場合があります。

当院では、
心理検査・カウンセリング
と精神科診療を必要に応じて連携させています。

児童では
WISC-Vなどの知能検査
を用いて、認知特性や得意・不得意を整理する場合もあります。
ただし、心理検査はすべての方に必要なものではありません。

ペアレントトレーニングだけでは十分でない場合

子どもの困りごとの背景には、
発達特性だけでなく、
不安、抑うつ、睡眠の問題、学習上の困難、
学校環境、家族関係などが関係していることがあります。

ペアレントトレーニングを行ってもうまくいかない場合に、
「保護者の実践が足りない」と考えるべきではありません。


介入がうまくいかないこと自体が、
子どもの困難の背景を再評価するための重要な情報になります。

必要に応じて、
児童・思春期精神科
での診察、
心理検査・心理支援、
学校での環境調整、薬物療法などを組み合わせます。

よくある質問

Q. 発達障害の診断がなくても受けられますか?

診断名だけで適否を決めるものではありません。
子どもの行動への対応や親子関係に困っている場合に、
ペアレントトレーニングの考え方が役立つことがあります。

Q. 子ども本人も参加しますか?

ペアレントトレーニングでは、
保護者が関わり方を学び、
家庭で実践することが中心です。
必要に応じて子どもの診察や心理評価などを組み合わせます。

Q. とにかくたくさんほめればよいのでしょうか?

単純にほめる回数を増やすことが目的ではありません。
増やしたい行動を具体的に決め、
その行動が起きたタイミングで肯定的に反応します。

Q. 問題行動は無視すればよいのでしょうか?

いいえ。
計画的無視が適するのは、
注目によって維持されていると考えられる一部の軽度な行動です。
暴力、自傷、危険行動などは無視せず、安全確保を優先します。

Q. ADHDなら薬を使わずに済みますか?

年齢、症状、生活への支障によって異なります。
幼児期では保護者を介した行動療法が特に重要ですが、
学童期以降では薬物療法や学校での支援を組み合わせる場合があります。

Q. 叱ってはいけないのでしょうか?

必要なルールや限界を伝えないという意味ではありません。
感情的な叱責に頼るのではなく、
何をすればよいのかを具体的に伝え、
適切な行動を増やしていくことを重視します。

Q. 保護者自身が疲れていても受けられますか?

はい。
完璧に実践することを目標にはせず、
家庭で実行できる範囲から始めます。
保護者自身の心理的負担が大きい場合には、
保護者への支援もあわせて検討します。

関連する診療・支援

まとめ

ペアレントトレーニングは、
保護者が子どもの行動を客観的に理解し、
家庭で使える具体的な関わり方を増やしていく心理社会的支援です。

ABC分析などを用いて行動の前後関係を整理し、
肯定的な注目、具体的な指示、環境調整などによって、
望ましい行動が起こりやすい状況を作っていきます。

ADHDや反抗的な行動などに活用されますが、
子どもの発達特性そのものをなくしたり、
親が子どもを思い通りにコントロールしたりするための方法ではありません。

うまくいかないときに保護者を責めるものでもありません。
子どもの特性、家庭環境、学校生活、保護者の負担などを整理し、
親子双方が生活しやすくなる方法を一緒に増やしていくこと
がペアレントトレーニングの目的です。

執筆者
清水聖童

医療法人社団燈心会 理事長
ライトメンタルクリニック 渋谷本院 院長

清水聖童 (Seido Shimizu)

精神保健指定医
日本精神神経学会認定精神科専門医
認知症サポート医
コンサータ・ビバンセ登録医

引用・参考文献

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Clinical Practice Guideline for the Diagnosis, Evaluation,
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6. Kazdin AE.
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in Children and Adolescents.
Oxford University Press; 2005.

7. 井上猛・桑原斉・酒井隆・鈴木映二・水上勝義・宮田久嗣・諸川由実代・吉尾隆・渡邉博幸 編.
こころの治療薬ハンドブック 第16版.
星和書店.

8. 樋口輝彦・市川宏伸・神庭重信・朝田隆・中込和幸 編.
今日の精神疾患治療指針 第2版.
医学書院.

9. 姫井昭男.
精神科の薬がわかる本 第5版.
医学書院.

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