対人関係療法(IPT)とは|人間関係の悩みに焦点を当てる心理療法

目次
はじめに
対人関係療法(IPT:Interpersonal Psychotherapy)は、
現在みられている症状と、身近な人との関係や生活上の役割とのつながりに注目する心理療法です。
「人間関係が症状の原因である」と単純に考えるのではなく、
症状と対人関係がどのように影響し合っているかを整理し、
現在の生活の中で取り組める変化を探していきます。
対人関係療法(IPT)とは
私たちの気分やこころの状態は、
家族、パートナー、友人、職場など、
自分にとって重要な人との関係や、
生活上の役割の変化から影響を受けることがあります。
反対に、抑うつや不安などの症状が強くなることで、
人との関わり方が変化し、
対人関係の負担がさらに大きくなることもあります。
IPTでは、こうした
「症状」と「現在の対人関係」の相互作用
を整理しながら、治療で重点的に扱うテーマを決めていきます。
Interpersonal Psychotherapy
IPT
現在の症状と対人関係
対人関係上のテーマを絞って取り組む
悲哀・役割をめぐる不一致・役割の変化・対人関係の欠如
対人関係の棚卸し・コミュニケーション分析・対応の検討

POINT 01|現在の対人関係に焦点を当てる
家族やパートナー、友人、職場など、
現在の生活で本人にとって重要な人との関係を具体的に扱います。
POINT 02|症状とのつながりを整理する
気分の落ち込みや不安などの症状と、
人間関係上の出来事や生活の変化がどのように影響し合っているかを整理します。
POINT 03|テーマを絞って取り組む
現在の困りごとの中から、
治療で重点的に扱う対人関係上のテーマを設定し、
具体的な変化を目指します。
症状と対人関係が相互に影響する仕組みを理解し、
本人にとって重要な関係や役割への対処を整えることで、
症状の改善につなげていくことを目指します。
IPTで扱う4つの対人関係の問題
IPTでは、
現在の症状に関連している対人関係上の問題を整理し、
治療で重点的に扱う領域を選びます。
代表的には、
「悲哀」「役割をめぐる不一致」「役割の変化」「対人関係の欠如」
という4つの問題領域があります。
すべてを同時に扱うのではなく、
現在の状態に合わせて中心となるテーマを絞ります。

1.悲哀・喪失
大切な人との死別などによる喪失が、
気分や日常生活へ大きく影響している場合です。
喪失に伴う気持ちを整理しながら、
現在の生活とのつながりを取り戻していきます。

2.役割をめぐる不一致
パートナーや家族、職場などで、
お互いが相手に期待している役割にずれがあり、
対立や行き違いが続いている状態です。
実際のやり取りを整理しながら、
期待の伝え方や受け取り方を検討します。

3.役割の変化
就職、転職、結婚、出産、離婚、退職などによって、
生活や人間関係が変化し、
新しい役割への適応が負担となっている場合です。
変化によって失ったものと新しく得たものを整理しながら、
新しい状況への適応を支えていきます。

4.対人関係の欠如
親しい人との関係が少ない、
あるいは関係を築いたり維持したりすることが難しく、
その対人関係のパターンが現在のつらさと関連している場合です。
他の3つの問題領域と比較すると、
中心テーマとして扱われる頻度は多くありません。
4つの型に人を当てはめる治療ではありません
IPTでは、本人そのものを分類するのではなく、
現在の症状と対人関係との関連を確認し、
今の治療で扱うと有用と考えられる問題領域を選びます。
対人関係療法(IPT)が向いている人
IPTは、
人との関係や生活上の変化が、
気分や日常生活へ影響していると考えられる場合に検討されます。
ただし、
診断名や悩みの種類だけで適否が決まるわけではありません。
現在の症状や治療目標を確認したうえで判断します。
人間関係の変化と気分が関係している
人との関係が変化した時期と、
気分の落ち込みや不安が強くなった時期が重なっている場合です。
大きな生活の変化に戸惑っている
就職、転職、結婚、出産、離婚、退職など、
新しい環境や役割への適応が負担になっている場合です。
特定の人との関係が繰り返し負担になる
家族、パートナー、職場などで、
期待のずれやすれ違いが続き、
その関係が大きなストレスとなっている場合です。
現在の人間関係を具体的に整理したい
過去を広く分析することより、
現在起きている人間関係上の問題を整理し、
現実的な対応方法を考えたい場合です。
IPTだけに限定して治療するとは限りません
症状の程度やその時点の状態によっては、
薬物療法や他の心理療法を組み合わせたり、
別の治療を先に行ったりすることがあります。
どの治療が適しているかは、
現在の症状や困りごとを確認しながら検討します。
IPTで行うこと
IPTでは、
現在の対人関係について具体的な出来事や会話を振り返りながら、
症状との関連を整理していきます。
単に悩みを聞くだけではなく、
「誰との関係で何が起きているか」
「何を伝えたかったか」
「相手にはどのように伝わったか」
などを一緒に確認し、
今後の対処方法を考えていきます。
01|大切な人との関係を整理する
家族、パートナー、友人、職場など、
現在の生活で重要な人との関係を棚卸しします。
支えになっている関係と、
負担となっている関係を整理します。
02|実際のやり取りを振り返る
印象に残った会話や出来事を具体的に振り返ります。
何を伝えたかったのか、
相手にどう伝わったのか、
その時どのような感情が生じたのかを確認します。
03|よりよい対応を一緒に考える
相手との関係や状況を踏まえて、
今後どのように伝えたり対応したりするかを検討します。
必要に応じて、
実際の会話を想定したロールプレイを行うこともあります。
自分と相手との間で何が起きているかを具体的に整理し、
自分自身が選べる対応や伝え方を増やしていくことを目指します。
対人関係療法と他の心理療法の違い
心理療法にはそれぞれ異なる焦点や進め方があります。
どれか一つが一律に優れているわけではなく、
症状、相談内容、治療目標に応じて適した方法を検討します。
| 心理療法 | 主に重視すること | 進め方 | 相談のイメージ |
|---|---|---|---|
| 対人関係療法 IPT |
現在の対人関係と症状 現在起きている対人関係上の出来事と、 気分や症状との関連を整理します。 |
対人関係上の課題を焦点化 喪失、役割の変化、対人関係上の葛藤などから、 治療で扱うテーマを設定します。 |
「人間関係の問題と気分の変化を整理したい」 |
認知行動療法 CBT |
認知・感情・行動の関係 症状や困りごとに関連する考え方や行動のパターンを整理します。 |
比較的構造化して進める 治療目標を設定し、 記録や課題、行動上の練習などを取り入れることがあります。 |
「症状への具体的な対処方法を身につけたい」 |
来談者中心療法 CCT |
感情・価値観・自己理解 自分自身の体験や感情を丁寧に振り返り、 自己理解を深めます。 |
対話を中心に進める 受容や共感を重視し、 本人のペースで対話を進めます。 |
「まずは自分の気持ちを整理したい」 |
力動的精神療法 |
感情・対人関係・繰り返すパターン 気づきにくい感情やこころの働き、 繰り返される対人関係のパターンを理解します。 |
対話を通じて背景を理解する 現在の悩みとこれまでの経験との関連を振り返ります。 |
「なぜ同じ悩みや人間関係を繰り返すのか理解したい」 |
EMDR |
苦痛を伴う記憶や体験 現在の症状に影響しているトラウマ記憶や、 関連する感情・身体反応を扱います。 |
一定の手順に沿って進める 眼球運動などの両側性刺激を用いながら、 記憶の処理を促します。 |
「過去のつらい体験が現在にも強く影響している」 |
心理療法は、一つだけに限定されるとは限りません
実際の治療では、
症状や診断、相談内容、その時々の状態や治療目標に応じて、
複数の心理療法の考え方を取り入れることがあります。
必要に応じて薬物療法などと組み合わせることもあります。
対人関係療法(IPT)の進め方
IPTは、
治療で扱う焦点や進め方が比較的明確な心理療法です。
ただし、実際の経過は症状や対人関係の状況によって異なります。
1
症状と現在の対人関係を整理する
現在困っている症状を確認したうえで、
家族、パートナー、友人、職場など、
本人にとって重要な人との関係や、
最近起きた生活上の出来事を整理します。
2
治療で扱うテーマを決める
どのような場面で不安や怒りが強くなるのか、
なぜ人との距離を取りたくなるのかなど、
症状と対人関係に関連する場面を振り返ります。
その中から、
現在の治療で中心的に扱う問題領域や対人関係上のテーマを定めます。
3
具体的な対人関係に取り組む
治療で決めたテーマを中心に、
実際に起きた出来事や会話を振り返ります。
相手への期待、自分の気持ち、伝え方などを整理しながら、
現在の状況で取り得る対応を一緒に検討します。
4
変化を振り返り、今後につなげる
治療の中で起きた変化や、
対人関係への理解がどのように深まったかを振り返ります。
同じような状況が起きたときにも、
より柔軟に対応できるよう、
治療で得た経験を今後の生活につなげていきます。
治療の進み方には個人差があります
必要に応じて前の段階へ戻ったり、
同じテーマを繰り返し扱ったりしながら進めます。
対人関係療法(IPT)のよくある質問
人間関係の悩みがある人だけが対象ですか?
必ずしも、
本人が「人間関係に悩んでいる」と自覚している必要はありません。
IPTでは、
現在の困りごとと、
身近な人との関係や生活上の役割の変化とのつながりを整理します。
どの問題領域を扱うかは一人ひとり異なります。
相手と一緒にカウンセリングを受けますか?
IPTは基本的に、
本人と治療者との間で進める心理療法です。
パートナーや家族との関係を扱う場合でも、
必ずしも相手にも参加してもらうわけではありません。
過去の出来事についても話しますか?
必要に応じて過去の経験を振り返ることはありますが、
IPTでは主として、
現在の症状や困りごとと現在の対人関係との関連に焦点を当てます。
過去そのものを詳しく分析することを中心とする心理療法ではありません。
相手との関係を改善することが目的ですか?
必ずしも「関係を良くする」ことだけが目的ではありません。
相手との間で何が起きているのか、
自分は何を期待しているのか、
それをどのように伝えているのかを整理し、
現在の状況で自分が選択できる対応を増やしていきます。
どのくらいの期間で進めますか?
IPTは、
治療で扱うテーマや目標を比較的明確にして進める心理療法です。
一般には一定の期間を設けて取り組みますが、
実際の期間や進め方は、
相談内容、症状、治療目標などによって異なります。
他の心理療法と組み合わせることはありますか?
あります。
相談内容や治療目標に応じて、
IPTの考え方だけに限定せず、
ほかの心理療法の考え方を組み合わせながら進める場合があります。
当院の心理カウンセリング料金
当院の心理カウンセリングは、
医師の診察を受けずに直接ご予約いただけます。
30分または60分の枠から選択でき、
継続して利用される方向けに6回セットもご用意しています。
| メニュー | 料金(税込) |
|---|---|
| 初回 30分 | 2,000円 |
| 2回目以降 30分 | 4,000円 |
| 6回セット 30分 | 18,000円 |
| 初回 60分 | 4,000円 |
| 2回目以降 60分 | 7,500円 |
| 6回セット 60分 | 33,500円 |
オンラインでの心理カウンセリング
オンラインでも同じ30分・60分・6回セットの料金体系でご利用いただけます。
オンラインの場合は、
上記料金とは別に予約料330円がかかります。
まとめ
対人関係療法(IPT)は、
現在の症状と、
身近な人との関係や生活上の役割とのつながりに注目する心理療法です。
悲哀、役割をめぐる不一致、役割の変化、対人関係の欠如という問題領域を手がかりに、
現在の症状に関係する対人関係上のテーマを整理します。
治療では、
重要な人との関係を棚卸しし、
実際の会話や出来事を具体的に振り返りながら、
自分が選べる伝え方や対応方法を増やしていきます。
IPTだけに限定する必要はなく、
症状や治療目標に応じて、
他の心理療法や薬物療法を組み合わせることもあります。
執筆者

医療法人社団燈心会 理事長
ライトメンタルクリニック 渋谷本院 院長
清水聖童 (Seido Shimizu)
精神保健指定医 /
日本精神神経学会認定精神科専門医 /
認知症サポート医 /
コンサータ・ビバンセ登録医
引用・参考文献
1. Klerman GL, Weissman MM, Rounsaville BJ, Chevron ES. Interpersonal Psychotherapy of Depression. Basic Books; 1984.
2. Weissman MM, Markowitz JC, Klerman GL. The Guide to Interpersonal Psychotherapy: Updated and Expanded Edition. Oxford University Press; 2018.
3. Cuijpers P, Geraedts AS, van Oppen P, Andersson G, Markowitz JC, van Straten A. Interpersonal psychotherapy for depression: a meta-analysis. Am J Psychiatry. 2011;168(6):581-592.
4. Markowitz JC, Weissman MM. Interpersonal psychotherapy: past, present and future. Clin Psychol Psychother. 2012;19(2):99-105.
5. National Institute for Health and Care Excellence (NICE). Depression in adults: treatment and management. NICE Guideline NG222. 2022.
6. American Psychological Association. Clinical Practice Guideline for the Treatment of Depression Across Three Age Cohorts. 2019.
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