ASRS(成人ADHD自己記入式症状チェックリスト)とは|6項目・18項目・結果の見方を精神科専門医が解説

目次
- はじめに
- ASRSとは|WHOの国際研究から開発された成人ADHD評価尺度
- 成人ADHDではどのような問題がみられるのか
- ASRSの検査原理
- ASRS-v1.1の18項目とPart A・Part B
- ASRSの採点方法|Part Aは4項目以上が目安
- ASRS陽性ならADHDと診断できる?
- ASRS-5とASRS-v1.1の違い
- 日本語版ASRS-Jの信頼性・妥当性
- ASRSとCAARSの違い
- ASRSとWAIS-IVの違い
- ADHD診断では小児期からの症状が重要
- 成人期に初めて困りごとが目立つ場合
- ASRSが低くてもADHDを否定できない理由
- ASRSが高くなるADHD以外の状態
- 成人ADHDの診断で確認する5つの要素
- ASRSの結果を職場でどう活かすか
- ASRSの結果を生活改善につなげる方法
- ADHDの心理社会的支援と認知行動療法
- ADHDの薬物療法
- 当院での成人ADHD評価の考え方
- ASRSのよくある質問
- まとめ
- 執筆者
- 引用・参考文献
はじめに
「仕事の締め切りを守れない」「忘れ物やケアレスミスが多い」「やるべきことを後回しにしてしまう」「落ち着きがなく、常に頭の中が忙しい」。こうした困りごとが続くと、大人のADHD(注意欠如・多動症)ではないかと考える方も少なくありません。
ASRS(Adult ADHD Self-Report Scale:成人ADHD自己記入式症状チェックリスト)は、成人のADHDに関連する不注意、多動性、衝動性を本人が回答し、専門的な評価が必要かどうかを短時間でスクリーニングする尺度です。
本記事では、ASRSの開発背景、18項目版と6項目版の違い、採点方法、カットオフ値、臨床での解釈、CAARSやWAIS-IVとの使い分け、職場での支援への活用まで、精神科専門医の視点から解説します。
ASRSとは|WHOの国際研究から開発された成人ADHD評価尺度
ASRSは、世界保健機関(WHO)の成人ADHD研究に関連して、Ronald C. Kesslerらの研究グループによって開発された自己記入式評価尺度です。
代表的なASRS-v1.1は、DSM-IVにおけるADHDの18症状を基礎としており、成人期の日常生活や社会生活でみられる不注意、多動性、衝動性の頻度を評価します。
ASRS
Adult ADHD Self-Report Scale
成人
自己記入式質問紙
18項目/短縮6項目
成人ADHDのスクリーニング
成人ADHDの症状や診断基準については、注意欠如・多動症(ADHD)の解説もご参照ください。
成人ADHDではどのような問題がみられるのか
成人ADHDの症状は、小児期のような目立つ多動行動だけではありません。社会生活が複雑になるにつれて、時間管理、課題遂行、対人関係などの問題として現れることがあります。
時間管理・先延ばし
仕事の優先順位を決められない、締め切りまで着手できない、重要なタスクを忘れるなどの困難です。
不注意・ケアレスミス
書類の入力ミス、確認漏れ、忘れ物、約束の失念などが繰り返されることがあります。
多動性・衝動性
落ち着かない、話しすぎる、相手の発言を遮る、待つことが苦手などの形で現れることがあります。
二次的な心理的問題
繰り返す失敗や叱責によって自己評価が低下し、不安、抑うつ、慢性的なストレスを伴うことがあります。
ASRSは、このような困りごとのうち、ADHDの中核症状に関連する行動の頻度を系統的に確認するために利用されます。ただし、生活上の機能障害や二次的な心理的問題の全体をASRSだけで測定できるわけではありません。
ASRSの検査原理

ASRS-v1.1では、過去6か月間の行動について、「全くない」から「非常に頻繁にある」までの5段階で回答します。
評価するのは、本人が経験するADHD関連症状の頻度です。したがって、症状が生じた原因、幼少期からの持続性、実際の生活への影響などは別途評価する必要があります。
ASRS-v1.1の18項目とPart A・Part B
ASRS-v1.1は18項目で構成され、Part AとPart Bに分かれています。
| 領域 | 項目数 | 評価上の役割 |
|---|---|---|
| Part A | 6項目 | ADHDの可能性を効率よくスクリーニングする |
| Part B | 12項目 | その他のADHD関連症状の出現頻度を確認する |
Part Aは、ADHDの臨床診断との一致を高めるよう統計的に選択された6項目で構成されています。
Part Bは残る12項目からなり、より幅広い症状を把握するために使用します。
Part Bは単独の重症度判定尺度ではありません。症状の広がりや頻度を確認することには役立ちますが、Part Bの得点だけでADHDの重症度や診断を決定するものではありません。
ASRSの採点方法|Part Aは4項目以上が目安
ASRS-v1.1 Part Aでは、それぞれの質問項目について、所定の回答カテゴリーに該当するかを確認します。
正式な回答用紙では、臨床的に意味を持つ回答範囲が網掛けされており、6項目のうち4項目以上が網掛け部分に該当した場合、成人ADHDの可能性について追加評価を行う目安となります。
6項目
短縮スクリーナー
4項目以上
所定の回答基準に該当
追加評価
診断確定ではありません
採点方法に注意が必要です。
Part Aでは、回答に0~4点を付けて単純合計する方法ではなく、項目ごとに設定された基準を用います。独自に合計点を算出して診断することは避ける必要があります。
ASRS陽性ならADHDと診断できる?
ASRSが陽性でも、それだけでADHDとは診断できません。
スクリーニング検査は、可能性のある人を見逃しにくくすることを目的としています。そのため、実際にはADHDではない人も陽性になることがあります。
特に精神科外来では、うつ病、不安症、双極性障害、睡眠障害などによっても、集中困難や落ち着かなさが生じる可能性があります。
専門医としての個人的見解
ASRSの臨床的価値は、単純な陽性・陰性判定よりも、診察で詳しく確認すべき症状を効率よく抽出できる点にあると考えています。
重要なのは「何項目陽性だったか」だけでなく、「どの症状が、いつから、どのような状況で存在し、実生活にどの程度の問題を生じているのか」です。
ASRS-5とASRS-v1.1の違い
2017年には、DSM-5の診断基準に対応した6項目スクリーナーとしてASRS-5が報告されました。
ASRS-v1.1のPart AとASRS-5はいずれも6項目ですが、同一の尺度ではなく、項目構成や採点方法が異なります。
| ASRS-v1.1 Part A | ASRS-5 | |
|---|---|---|
| 開発時の診断体系 | DSM-IV | DSM-5 |
| 項目数 | 6項目 | 6項目 |
| 採点方法 | 項目ごとの頻度基準 | 独自の重み付けによる採点 |
| 主な目的 | 成人ADHDスクリーニング | DSM-5に対応したスクリーニング |
検査結果を解釈する場合には、どのバージョンを使用したかを確認することが重要です。
日本語版ASRS-Jの信頼性・妥当性
日本語版ASRSについても、信頼性や妥当性が研究されています。
Takedaらは、日本語版ASRSと短縮版について成人ADHD群、他の精神疾患群、非臨床群などを対象として心理測定学的特性を検討しています。
その結果、内的一貫性、再検査信頼性、他の成人ADHD評価尺度との関連などについて一定の妥当性が確認されています。
一方で、日本語版であってもASRSだけで確定診断できるわけではありません。
ASRSとCAARSの違い
成人ADHDの評価では、ASRSとCAARS(コナーズ成人ADHD評価スケール)を使い分けることがあります。
| 比較項目 | ASRS | CAARS |
|---|---|---|
| 目的 | 短時間のスクリーニング | 症状プロフィールの詳細評価 |
| 回答者 | 本人 | 本人・観察者 |
| 評価内容 | ADHD関連症状の頻度 | 複数領域の症状プロフィール |
| 主な用途 | 初期評価 | 詳細評価・臨床的検討 |
| 単独で診断できるか | できない | できない |
ASRSは短時間でのスクリーニングに適しており、CAARSは症状をより詳しく評価したい場合に役立ちます。
ASRSとWAIS-IVの違い
WAIS-IVは知能や認知能力のプロフィールを評価する検査であり、ASRSとは目的が異なります。
ASRSでは本人が自覚するADHD関連症状を評価します。一方、WAIS-IVでは実際に課題へ取り組み、言語理解、知覚推理、ワーキングメモリー、処理速度などの認知能力を評価します。
| ASRS | WAIS-IV | |
|---|---|---|
| 方式 | 質問紙 | 課題遂行型検査 |
| 評価対象 | ADHD関連症状 | 認知能力・認知プロフィール |
| 主な役割 | スクリーニング | 認知特性や支援方法の検討 |
| ADHD確定診断 | 不可 | 不可 |
ADHD群では、研究上ワーキングメモリーや処理速度の成績が平均的に低下する傾向が報告されています。ただし、個々の患者さんで必ず同じ特徴がみられるわけではありません。
また、ワーキングメモリーや処理速度の低下は、うつ病、不安症、睡眠不足、薬剤の影響などでもみられます。
専門医としての個人的見解
当院では成人発達障害の評価にWAIS-IVを積極的に活用しています。ただし、WMIやPSIが低いことだけでADHDと判断することは適切ではありません。
むしろ、ASRSや診察で確認した生活上の困難とWAIS-IVのプロフィールを照合し、本人の得意・不得意を踏まえた支援方法を考えることに価値があると考えています。
ADHD診断では小児期からの症状が重要
成人ADHDの診断では、現在の不注意や衝動性だけでなく、発達期から症状が存在していたかを確認します。
DSM-5-TRでは、複数の不注意または多動性・衝動性症状が12歳以前から存在していることが診断要件の一つです。
そのため、成人期のASRSだけでは発達期からの連続性を十分に評価できません。
- 小学校・中学校時代の忘れ物や提出物
- 授業中の集中や落ち着き
- 通知表や連絡帳の記録
- 家族からみた幼少期の特徴
- 進学・就職後の困りごとの変化
- 過去の仕事や対人関係での問題
こうした情報を組み合わせて縦断的な評価を行います。
成人期に初めて困りごとが目立つ場合
ADHDは神経発達症ですが、成人期になって初めて生活上の困難が明確になることがあります。
例えば、小児期には保護者や学校の支援によって問題が目立たなかったものの、大学進学、就職、管理職への昇進、育児などで自己管理の負担が増えると、困難が顕在化することがあります。
専門医としての個人的見解
成人ADHD診療では、本人がいつ困り始めたかだけでなく、それ以前にどのような方法で困難を補っていたかを確認することが重要だと考えています。
例えば、忘れ物を防ぐために何度も確認する、遅刻を防ぐため極端に早く出勤する、仕事を終えるために慢性的な長時間労働をするといった補償行動が、症状を見えにくくしている可能性があります。
ASRSが低くてもADHDを否定できない理由
ASRSは自己記入式のため、本人の自己認識や生活環境の影響を受けます。
- 自分の症状に気づいていない
- 周囲の支援によって困りごとが減っている
- 本人に合った環境で生活している
- 確認作業や過剰な努力で問題を補っている
- ADHD治療薬によって症状が改善している
こうした場合には、ASRSが陰性でもADHDの可能性が残ることがあります。
ASRSが高くなるADHD以外の状態
ASRSが評価する不注意や落ち着かなさは、ADHD以外の精神疾患でもみられます。
| 状態 | 類似する症状 | 鑑別の視点 |
|---|---|---|
| うつ病 | 集中力低下、物忘れ、意欲低下 | 抑うつ状態と症状の出現時期 |
| 不安症 | 注意散漫、落ち着かなさ | 不安・心配との関連 |
| 双極性障害 | 活動性増加、衝動性 | エピソード性か持続性か |
| 睡眠障害 | 注意力・判断力低下 | 睡眠との関連 |
| ASD | 実行機能や切り替えの困難 | 社会的コミュニケーションなどの特徴 |
| ストレス反応 | 忘れ物、集中困難 | 環境負荷との時間的関係 |
睡眠障害では、睡眠時無呼吸症候群などの身体的要因が注意機能へ影響する可能性もあります。
ASDの特性を併せて検討する場合には、AQ-J(自閉症スペクトラム指数)などを活用することがあります。
成人ADHDの診断で確認する5つの要素
1
現在の症状不注意、多動性、衝動性がどの程度存在するかを確認します。
2
発達期からの経過12歳以前から複数の症状が存在していたかを確認します。
3
複数場面での症状家庭、仕事、学校など、複数の生活場面で症状が存在するかを評価します。
4
生活上の機能障害仕事、学業、家庭生活、対人関係などにどの程度支障があるかを確認します。
5
他疾患との鑑別他の精神疾患や身体状態によって症状が説明されないかを検討します。
必要に応じてDIVAなどの半構造化面接、家族からの情報、学校時代の資料、心理検査を組み合わせます。
ASRSの結果を職場でどう活かすか
ASRSは、職場不適応の背景にADHD関連症状がある可能性を検討するきっかけとして利用できます。
ただし、ASRSの結果だけで業務能力や職務適性を判断することは適切ではありません。
職場で問題が起きた場合には、本人の特性だけでなく、業務量、指示の明確さ、職場環境、睡眠、心理的ストレスなどを含めて検討する必要があります。
専門医としての個人的見解
産業保健や復職支援では、診断名だけでなく「どのような負荷がかかるとミスが増えるのか」「どのような環境で業務遂行が安定するのか」を具体的に検討することが重要だと考えています。
ASRSは、こうした検討を開始するための資料にはなりますが、人事評価や採用判定を目的とした検査として使用するべきではありません。
ASRSの結果を生活改善につなげる方法
タスクを外部化する
予定や仕事を頭の中だけに保存せず、カレンダー、タスク管理アプリ、メモ、ホワイトボードなどに書き出します。
作業を小さく分割する
「報告書を作る」という大きな課題を、「資料を集める」「見出しを書く」「本文を一段落作る」などの行動へ細分化します。
時間を視覚化する
タイマーやアラーム、リマインダーを利用し、時間管理を本人の感覚だけに依存しない仕組みを作ります。
確認作業を仕組み化する
注意力だけに頼らず、チェックリスト、読み合わせ、送信前確認などを業務工程へ組み込みます。
指示を文章で残す
口頭指示を忘れやすい場合は、メールやチャットなど、後から確認できる形で残すことを検討します。
必要な支援を具体的に伝える
「配慮してください」という抽象的な依頼よりも、「複数の指示が重なると混乱しやすいため、優先順位を文章で示してほしい」など、具体的な支援内容を伝える方が実用的です。
こうした相談方法には、アサーション・トレーニングの考え方も参考になります。
ADHDの心理社会的支援と認知行動療法
成人ADHDでは、心理教育、時間管理、整理整頓、問題解決、感情調整などの支援を組み合わせることがあります。
認知行動療法(CBT)は、失敗体験から形成された自己否定的な考え方への対応や、具体的な行動スキルの習得などに役立つ場合があります。
課題への着手が難しい場合には、スモールステップ化などの方法も参考になります。
ADHDの薬物療法
ADHDと診断され、症状による生活上の機能障害が明確な場合には、薬物療法を検討することがあります。
薬物療法の適応は、ASRSの得点だけで決まるものではありません。年齢、症状、併存疾患、身体状態などを総合して判断します。
各薬剤で国内の承認対象年齢、使用条件、適正流通管理などが異なるため、実際の処方はそれぞれの国内承認事項に従って検討します。
専門医としての個人的見解
ADHD治療薬は、本人の能力を別人のように変えるものではなく、注意制御や衝動性などの症状を軽減し、本来の能力を生活の中で発揮しやすくするための選択肢の一つだと考えています。
薬物療法だけで仕事の進め方や環境が自動的に改善するわけではないため、行動上の工夫や環境調整を並行することが重要です。
当院での成人ADHD評価の考え方
成人ADHDの評価では、ASRSなどの質問紙によるスクリーニングを入口として、診察、発達歴、生活上の機能障害、他の心理検査などを組み合わせて検討します。
1
現在の困りごとの確認具体的にどのような場面で困っているかを整理します。
2
ASRS等によるスクリーニング不注意、多動性、衝動性に関連する症状を評価します。
3
発達歴・生活歴の確認小児期からの経過、家庭や学校、職場での状況を確認します。
4
必要に応じた追加評価CAARS、WAIS-IV、ASD関連尺度などを組み合わせます。
5
診断・治療・支援方針の検討診察と評価結果を総合し、必要な治療や環境調整を考えます。
関連する検査については、発達障害スクリーニング検査一覧もご覧ください。
ASRSのよくある質問
ASRSで4項目以上陽性ならADHDですか?
いいえ。ASRS-v1.1 Part Aでは追加評価を行う目安になりますが、診断確定ではありません。
ASRSが陰性ならADHDではありませんか?
必ずしもそうではありません。本人の自己認識、周囲のサポート、服薬状況などによって低く出る場合があります。
ASRSとCAARSはどちらを受ければよいですか?
短時間のスクリーニングにはASRS、症状をより詳しく評価したい場合にはCAARSが適しています。目的に応じて使い分けます。
WAIS-IVでADHDかどうか分かりますか?
WAIS-IV単独ではADHDを診断できません。認知特性や支援方法を検討する補助資料として利用します。
ASRSは薬物療法の効果判定にも使えますか?
症状の経時的変化を把握する補助資料として使用される場合があります。ただし、版や採点法を統一し、症状の変化だけでなく生活上の機能障害や副作用も含めて評価する必要があります。
成人になってからADHDの症状が出ることはありますか?
成人期に困難が初めて目立つことはあります。ただしADHD診断では発達期からの症状の存在を確認します。成人期に突然出現した集中困難では他の原因も検討します。
まとめ
ASRSは、成人ADHDに関連する不注意、多動性、衝動性を自己評価するスクリーニング尺度です。
ASRS-v1.1では18項目があり、そのうち6項目が短縮スクリーナーとして使用されています。Part Aで所定の回答が4項目以上みられた場合には、追加評価を行う目安になります。
ただし、ASRSだけでADHDを確定診断することはできません。発達期からの症状、現在の機能障害、他疾患との鑑別などを総合して判断する必要があります。
必要に応じてCAARSやWAIS-IVなどを組み合わせ、本人の特性を理解し、適切な治療や環境調整につなげることが重要です。
執筆者

医療法人社団燈心会 理事長
ライトメンタルクリニック 渋谷本院 院長
清水 聖童(Seido Shimizu)
精神保健指定医 / 日本精神神経学会認定精神科専門医 / 認知症サポート医 / コンサータ・ビバンセ登録医
引用・参考文献
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