力動的精神療法とは|特徴・進め方・向いている悩みを解説

目次
はじめに
力動的精神療法は、
今抱えている悩みや症状だけでなく、
その背景にある感情、人との関わり方、
これまでの経験などにも目を向け、
自分のこころのパターンを理解していく心理療法です。
話すことを通して、
これまで気づきにくかった感情や、
繰り返している考え方・人間関係のパターンを少しずつ整理し、
より柔軟で自分らしい感じ方や関わり方につなげていきます。

感情や対人関係、繰り返すパターンとその背景を理解していきます。
力動的精神療法とは
「なぜこんなに腹が立つのだろう」
「相手が変わっても、似たような人間関係になってしまう」
「つらいことはわかるけれど、自分でも何がつらいのかわからない」
ということがあります。
私たちは、
自分が何を感じ、
なぜそのように行動しているのかを、
いつも完全に理解できているわけではありません。
力動的精神療法では、
表面に現れている症状や行動だけを見るのではなく、
その背景にある感情、
人への期待や不安、
これまでの経験、
そして繰り返しやすい対人関係のパターンなどを手がかりとして、
こころの動きを理解していきます。
力動的精神療法
Psychodynamic Psychotherapy
感情・対人関係・繰り返す心理的パターン
対話を通してこころの背景を理解する
現在の悩みと過去・対人関係とのつながりを考える
自己理解を深め、より柔軟な感じ方や関わり方につなげる

人との関わり方を手がかりとして、
自分のこころの動きを一緒に理解していきます。
01|FEELINGS
言葉になりにくい気持ちを理解する
「なぜこんなに腹が立つのか」
「なぜ不安になるのか」など、
普段は意識しにくい感情にも目を向けます。
感情を丁寧に言葉にすることで、
自分の反応を理解しやすくしていきます。
02|PATTERNS
繰り返す考え方や人間関係に気づく
環境や相手が変わっても、
似たような悩みや人間関係のつまずきを
繰り返すことがあります。
その背景にある自分なりの感じ方や関わり方を
一緒に整理します。
03|BACKGROUND
「なぜそうなるのか」を一緒に考える
現在の悩みと、
これまでの経験や人との関係とのつながりを振り返りながら、
自分のこころの動きを理解していきます。
過去を原因と決めつけるのではなく、
現在の自分を理解する手がかりとして扱います。
「何が起きているか」だけでなく、
「なぜ自分はそう感じ、そう関わるのか」を考える
力動的精神療法では、
症状や行動そのものをただ修正するのではなく、
その背景にある感情やこころの働きを理解することを大切にします。
力動的精神療法の基本的な考え方
力動的精神療法では、
私たちの感じ方や行動には、
自分では気づきにくい感情やこころの働きも影響していると考えます。
現在の悩みだけを見るのではなく、
感情をどのように扱っているか、
人との関係でどのような反応を繰り返しているかなどを手がかりに、
こころの動きを理解していきます。
01|意識していないこころの働きにも目を向ける
無意識的な過程
私たちは、
自分の気持ちや行動の理由を
いつも完全に理解しているわけではありません。
話していくなかで生じる感情や言葉のつながりから、
これまで気づきにくかったこころの動きを整理していきます。
02|こころを守る反応にも意味がある
防衛
不安や傷つきなどを避けるために、
感情を抑えたり、
考えないようにしたりすることがあります。
こうした反応を否定するのではなく、
なぜその反応が必要になったのかを一緒に考えます。
03|セラピストとの関係も理解の手がかりになる
転移・治療関係
普段の人間関係で生じやすい期待、不安、
距離の取り方などが、
カウンセリングの場でも現れることがあります。
そこで起きている感情を一緒に振り返ることで、
対人関係のパターンへの理解を深めます。
04|理解を日常の変化につなげる
理解と変化
一度理由がわかればすぐに変わる、
というものではありません。
同じような場面で起こる感情や反応を繰り返し振り返りながら、
これまでとは違う受け止め方や関わり方を
少しずつ身につけていきます。
こころの働きを「悪い癖」として取り除く治療ではありません
現在の反応や人との関わり方には、
これまでその人を守ったり、
状況に適応したりするために必要だった側面があることもあります。
力動的精神療法では、
そうした反応がその人にとってどのような意味を持ってきたのかを理解しながら、
より柔軟な感じ方や関わり方を育てていきます。
力動的精神療法が向いている方
力動的精神療法は、
同じような悩みや人間関係のつまずきを繰り返している方や、
自分の感情や行動の背景をもう少し深く理解したい方に
向いていることがあります。

01|同じパターンを繰り返してしまう
「わかっているのに、また同じことをしてしまう」
ということがあります。
頭では「こうした方がよい」とわかっていても、
似た場面になると同じ反応を繰り返してしまうことがあります。
その行動だけを変えようとするのではなく、
そのとき何を感じ、
何を避けようとしているのかにも目を向けます。

02|人との関係で同じことが起こりやすい
「相手が変わっても、
なぜか同じような関係になる」
という場合があります。
職場、家族、友人、パートナーなど、
相手や環境が変わっても似たような不安や衝突が生じることがあります。
人に何を期待し、
何を恐れ、
どのように距離を取っているのかを整理しながら、
繰り返しやすい対人関係のパターンを理解していきます。

03|自分の気持ちをつかみにくい
「つらいのはわかるけれど、
何がつらいのかわからない」
と感じることがあります。
不安や落ち込み、苛立ちなどは感じていても、
その奥にある気持ちをうまく言葉にできないことがあります。
話していくなかで生じる感情にも目を向け、
自分が何を感じ、
何を求めているのかを少しずつ整理していきます。

04|悩みの背景まで考えてみたい
「症状を抑えるだけでなく、
自分自身について理解したい」
という方にも向いています。
症状を軽くすることに加えて、
自分の考え方、
人との関わり方、
これまでの経験とのつながりについて
理解を深めていきます。
自分のこころの動きを整理することで、
これまでとは少し違う受け止め方や関わり方につなげていきます。
心理療法は目的に合わせて選びます
力動的精神療法がすべての悩みに適しているわけではありません。
具体的な症状や行動への対処を優先したい場合には、
認知行動療法など別の心理療法が適していることもあります。
相談したい内容や治療目標に応じて、
適した方法を検討することが大切です。
力動的精神療法と他の心理療法の違い
心理療法にはさまざまな方法があり、
それぞれ重視するポイントや進め方が異なります。
力動的精神療法は、
現在の悩みだけでなく、
感情や対人関係のパターン、
その背景にあるこころの動きを理解していくことを重視します。
横にスクロールして比較できます →
| 心理療法 | 主に重視すること | 進め方 | 相談のイメージ |
|---|---|---|---|
|
力動的精神療法 Psychodynamic Therapy |
感情・対人関係・繰り返すパターン 自分では気づきにくい感情やこころの働き、 繰り返される対人関係のパターンを理解していきます。 |
対話を通して背景を理解する 現在の悩みとこれまでの経験とのつながりを振り返りながら、 感情や対人関係の特徴を整理します。 |
「なぜ同じ悩みや人間関係を繰り返すのか理解したい」 |
|
認知行動療法 CBT |
認知・感情・行動の関係 症状や困りごとに関連する 考え方や行動のパターンを整理します。 |
比較的構造化して進める 治療目標を設定し、 記録や課題、 行動上の練習などを取り入れることがあります。 |
「症状への具体的な対処方法を身につけたい」 |
|
来談者中心療法 CCT |
感情・価値観・自己理解 自分自身の体験や感情を丁寧に振り返り、 自己理解を深めていきます。 |
対話を中心に進める 受容や共感を重視しながら、 その人のペースで話を進めます。 |
「まずは自分の気持ちを整理したい」 |
|
EMDR |
苦痛を伴う記憶や体験 現在の症状にも影響している トラウマ記憶や関連する感情・身体反応を扱います。 |
一定の手順に沿って進める 眼球運動などの両側性刺激を用いながら、 記憶の処理を進めます。 |
「過去のつらい体験が現在にも強く影響している」 |
|
対人関係療法 IPT |
現在の対人関係と症状 現在の対人関係上の出来事と、 気分や症状との関連を整理します。 |
対人関係上の課題を焦点化する 喪失、 役割の変化、 対人関係の葛藤など、 治療で取り組むテーマを設定して進めます。 |
「人間関係の問題と気分の変化を整理したい」 |
目的や相談内容に応じた心理支援
心理療法のほかにも、
対象となる関係性や治療課題を明確にして行う心理支援があります。
症状や相談内容、
治療目標に応じて適した方法を検討します。
01|カップル療法
パートナー間の葛藤やコミュニケーション上の問題について、
二人の関係性や相互作用に着目して整理し、
関係改善に向けた支援を行います。
02|家族療法
症状や問題を一人だけの課題として捉えるのではなく、
家族全体の関係性や相互作用に着目しながら、
問題の改善を図ります。
03|ペアレント・トレーニング
子どもの発達特性や行動の特徴を理解しながら、
保護者が日常生活の中で実践できる
具体的な対応方法や関わり方を学びます。
04|CBT-OB
過食性障害や肥満・減量支援など、
食行動や体重管理に関する課題に対して、
認知行動療法の考え方を用いながら、
食行動や生活習慣の改善に取り組みます。
一つの心理療法だけに限定するとは限りません
実際のカウンセリングでは、
症状や診断、
相談内容、
その時々の状態、
治療目標などを踏まえます。
力動的な理解を基盤としながら、
必要に応じて他の心理療法や支援方法を取り入れることもあります。
力動的精神療法の流れ
力動的精神療法では、
現在の困りごとから話を始め、
対話を重ねながら感情や対人関係のパターン、
その背景にあるこころの動きを理解していきます。
横にスワイプして治療の流れを見る →

1
症状だけでなく仕事・家族・友人・パートナーとの関係も含めて整理します。

2
繰り返し生じる感情や反応を振り返り、
自分では気づきにくかったパターンを見つけていきます。

3
これまでの経験とどのようにつながっているのかを、
現在の自分を理解する手がかりとして考えます。

4
同じような場面でも、
これまでとは少し違う受け止め方や関わり方を選べるようにしていきます。
必ずSTEP 1から4へ一直線に進むわけではありません
力動的精神療法では、
新しい気づきから以前のテーマへ戻ることもあります。
感情や対人関係のパターンを繰り返し振り返りながら、
少しずつ理解と変化を深めていきます。
力動的精神療法についてよくある質問
過去のことを必ず話す必要がありますか?
必ずしも過去の出来事から話す必要はありません。
まずは現在困っていることや、
そのとき感じていることから話していきます。
必要に応じて、
現在の悩みとこれまでの経験とのつながりを振り返ることがありますが、
話したくないことを無理に話すことを目的とした治療ではありません。
どのくらいの期間続けますか?
相談内容や治療目標によって異なります。
短期間で特定のテーマを扱う場合もあれば、
対人関係や繰り返す心理的なパターンについて
時間をかけて理解していく場合もあります。
治療の目的や経過を確認しながら、
継続について相談していきます。
どれくらいで変化が現れますか?
変化の現れ方には個人差があります。
話すことで比較的早い段階から気持ちが整理されることもありますが、
力動的精神療法では、
自分の感情や対人関係のパターンへの理解を
繰り返し深めながら変化につなげていきます。
薬物療法と一緒に受けられますか?
薬物療法と並行して行うこともできます。
症状の程度や診断によっては、
薬物療法で症状を整えながら心理療法を行うことがあります。
精神科・心療内科では、
症状と心理的な背景の両方を考えながら
治療方法を検討します。
うまく話せなくても受けられますか?
きれいに整理して話す必要はありません。
「何を話せばよいかわからない」
「自分でも気持ちがよくわからない」
という状態そのものが、
理解を深める手がかりになることがあります。
セラピストと一緒に言葉を探しながら、
今感じていることを少しずつ整理していきます。
力動的精神療法が合わないこともありますか?
あります。
症状や治療目標によっては、
別の方法が適していることもあります。
具体的な症状への対処を優先したい場合や、
トラウマ記憶など特定の問題への介入が必要な場合には、
CBTやEMDRなど別の心理療法を検討することがあります。
現在の状態と治療目標を踏まえて、
適した方法を選択します。
当院で力動的精神療法を希望される方へ
力動的精神療法を含む心理カウンセリングは、
医師の診察を受けずに直接予約することもできます。
どの心理療法が適しているかわからない場合や、
薬物療法を含めた治療全体について相談したい場合には、
精神科・心療内科の診察でご相談ください。
まとめ
力動的精神療法は、
現在の悩みや症状だけでなく、
その背景にある感情、
人との関わり方、
繰り返しやすい心理的パターンなどを理解していく心理療法です。
自分では気づきにくい感情やこころの働き、
こころを守るための反応、
対人関係のなかで生じる期待や不安などを
対話を通して整理していきます。
過去の経験についても、
現在の問題の原因と決めつけるのではなく、
現在の自分を理解するための手がかりとして扱います。
自分のこころの動きへの理解を深めることで、
これまで繰り返していた反応に気づき、
より柔軟な感じ方や人との関わり方を
選びやすくしていくことを目指します。
一方、
具体的な症状への対処や、
特定のトラウマ記憶への介入などが優先される場合には、
CBTやEMDRなど別の心理療法が適していることもあります。
当院では、
症状や相談内容、
治療目標に応じて、
一つの心理療法だけに限定せず支援方法を検討します。
執筆者

医療法人社団燈心会 理事長
ライトメンタルクリニック 渋谷本院 院長
清水聖童 (Seido Shimizu)
精神保健指定医 /
日本精神神経学会認定精神科専門医 /
認知症サポート医 /
コンサータ・ビバンセ登録医
引用・参考文献
1. Shedler J. The efficacy of psychodynamic psychotherapy. American Psychologist. 2010;65(2):98-109.
2. Leichsenring F, Rabung S. Effectiveness of long-term psychodynamic psychotherapy: A meta-analysis. JAMA. 2008;300(13):1551-1565.
3. Driessen E, Hegelmaier LM, Abbass AA, et al. The efficacy of short-term psychodynamic psychotherapy for depression: A meta-analysis update. Clinical Psychology Review. 2015;42:1-15.
4. Abbass AA, Kisely SR, Town JM, et al. Short-term psychodynamic psychotherapies for common mental disorders. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2014;(7):CD004687.
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